改訂新版 世界大百科事典 「スグリ」の意味・わかりやすい解説
スグリ
Ribes
スグリ属Ribesはユキノシタ科の小低木で,果実が食用とされる種を多く含む。和名のスグリは本州中部に分布するR.sinanense F.Maek.をさすが,スグリ属の総称名としても,あるいは果樹として利用されるスグリ類の一般名としても用いられている。北半球の温帯域を中心に150種ほどを有するスグリ属の果実は球状の多汁な液果になるものが多く,ヨーロッパや北アメリカでいくつかの種が小果樹として栽培化された。これらの果樹として利用されるスグリ類は,植物体にとげがなく,花が多数総状花序につくフサスグリ類(カラントcurrant)と,通常とげがあり,花が少数しかつかないスグリ類(グーズベリーgooseberry)に大別される。
スグリ類(グーズベリー)は約700年前にイギリスにもたらされてから栽培改良が始まったという。これはヨーロッパスグリ(セイヨウスグリ,オオスグリともいう)R.grossularia L.で,アメリカではアメリカスグリR.hirtellum Michx.をもとに栽培品種が育成された。前者はヨーロッパ大陸からカフカス,北アフリカに原生し,後者は北アメリカ分布種である。アメリカスグリは中国西部や日本の原生種とも近縁である。どちらも成木は高さ1~2mくらい,枝節に目だつとげがあり,葉腋(ようえき)に1~3個の指頭大の球形や長球形の液果を結ぶ。ヨーロッパスグリの果径はアメリカスグリの倍以上ある。果色は淡緑・黄・赤・暗赤色などがあり,果皮には有毛と無毛とがある。甘みや酸味にもちがいがある。冷涼地の重粘土を好み,挿木,株分けでらくに増やせる。1873年日本に渡来したのはヨーロッパスグリと思われるが,今日では北海道に散在する程度で,多湿に強いアメリカスグリの方が日本での栽培には適している。イギリスでは19世紀に700品種をこえたが,アメリカからうどんこ病が入って以後栽培が減少した。アメリカスグリの良品種にはプアマン,ダウニングなどがある。生食するほか良質ゼリーとし,最近はキーウィフルーツの果肉とともにヨーグルトに混入されたりしている。
日本原産のスグリR.sinanense F.Maek.は長野・山梨県特産の野生種で,高さ1mくらい,枝にとげがあり,果実直径1~1.2cmで,赤褐色に熟し,食べられる。生食にするほか青いうちに塩漬に利用する。スグリは〈酸っぱい丸いもの〉の意という。アメリカスグリに近いが,日本では品種改良されなかった。
この和名のスグリに近縁の日本の野生種には次のようなものがある。コマガタケスグリR.japonicum Maxim.,トガスグリR.sachalinense (Fr.Schm.) Nakai,エゾスグリR.latifolium Jancz.,クロミノハリスグリR.horridum Rupr.,ヤブサンザシR.fasciculatum Sieb.et Zucc.などがある。ヤブサンザシはとげなしの雌雄異株で,束状に上向きにつく赤色球形の液果は食用に適さない。
執筆者:松井 仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報