ローマ時代のギリシア人歴史家,地誌家。小アジアのポントスのアマセイアに生まれ,修辞学,地理学,哲学を修め,ストア哲学者ポセイドニオスの知遇を得た。ローマやアレクサンドリアに長期間滞在し,またイタリア,ギリシア,小アジア,エジプトの各地を旅行しながら見聞を広げたが,晩年は故郷で過ごした。ストア学派の信奉者として宗教には懐疑的であり,私情を交えない観察に努めた。ポリュビオスの《世界史》以後の時代のギリシア・ローマ史を扱った歴史叙述47巻はほぼ完全に失われている。しかし,《地理書》17巻はゲオグラフィアと称された書物では最古のもので,その大部分が現存することから,今日彼は地理学者と称されることが多い。
《地理書》第1・2巻は序説をなし,ホメロス以来の地理学の歴史の紹介と,特にエラトステネス,ポセイドニオスらの数理地理学,自然地理学の批評にあてられている。第3巻以下はアウグストゥス帝治下のローマ帝国各地の沿岸地域とそれに隣接する後背地の記述にあてられている。第3巻イベリア半島,第4巻ガリア,ブリタニア,第5・6巻イタリア,シチリア,第7巻北欧と東欧,第8~10巻ギリシア(史実,神話,伝説も多く取り入れられている),第11巻カフカス,トルキスタン,メディア,アルメニア,第12~14巻小アジア(史実,神話が収められているとともに,直接の観察にもとづくために信憑性が高い),第15巻インド,ペルシア,第16巻メソポタミア,パレスティナ,エチオピア沿岸,アラビア,第17巻エジプト,エチオピア,北アフリカが取り上げられている。
このように彼は当時知られていた全世界(エクメーネ)について記述したが,総合的なものではなく,これまでの案内書の補足になっているので,地方ごとの記述の密度はまちまちである。天文,数理地理・自然地理には重きが置かれていないにもかかわらず,《地理書》は古代の地理観や歴史地理の豊かな宝庫として評価されている。同書においてストラボンは,ストア哲学の立場から,万物が神(プロノイア)の御業により,自然と人間の間には適応(ホモロギア)の関係があり,またある地方的特徴は自然によるが,他は人間の実践と慣習によるという環境可能論的見解を説いた。さらに,地理学が政治家や将軍らの国家に対する活動に資するとともに修養のための実践の学問であるとし,地中海世界を統一したローマを賛美している。
執筆者:本村 凌二+高橋 正
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ギリシアの歴史家、地理学者。「地理学の父」とよばれる。小アジアのポントスのアマセイアに生まれる。各地方を旅行し、とくにローマとエジプトに長く滞在したが、晩年は故郷で過ごした。ストア派の哲学者でもあり、また歴史家として47巻に及ぶ歴史書を書いたが現存しない。しかし、当時知られていた世界について述べた17巻の『地理学』は、その大部分が現存し、いわゆる科学的な地誌の手本となった。たとえば、まず地球一般、ついでスペインから各地方を記述するという手法は、近代ヨーロッパの地誌においても守られた。またそれまでのギリシアの数理地理学的傾向と異なり、自然地理や天文学を軽視し、とくに地理と歴史のかかわりを重視し、彼自身の観察のほか、各地の神話や伝承を多く取り入れている。ギリシア、ローマの作家による多くの著作も引用されており、とくに現存しない作品が知られることから、古代史の史料として貴重である。
[島 創平]
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前64頃~後21頃
ローマ時代の歴史家,地理学者。小アジアのポントス地方出身のギリシア人。ローマ,エジプトに長く住んだ。その著『地理学』(Geographia)は地中海世界各地の史実,伝承を豊富に含み,古代史研究の貴重な史料となっている。
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… 前5世紀までのローマ美術は,エトルリア美術およびマグナ・グラエキアのギリシア美術の影響を強く受け,いまだ独自性を有しておらず,その活動も活発ではなかった。このような状況をストラボンは,〈昔のローマ人は,美しさに気を配ることはなく,より大きなもの,より必要なものに心を奪われた〉と記している。しかし,前3世紀タラスやシュラクサイ(シラクザ)の征服によってギリシア美術の優品がローマに将来され,ローマ人はギリシアの美術に直接触れることになる。…
※「ストラボン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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