改訂新版 世界大百科事典 「ポントス」の意味・わかりやすい解説
ポントス
Pontos
〈海〉を意味するギリシア語。黒海Pontos Euxeinosと同義にも使われたが,転じてとくに黒海南岸の小アジア東部,ビテュニア,カッパドキア,小アルメニアに隣接した地域をいう。前6世紀,沿岸部にシノペ,トラペズス(トラブゾン)などのギリシア植民市が建設されたが,内陸部ではイラン系の豪族が村落を,また神官層が広大な神殿領を支配していた。ハリュス川(現,キジル・イルマク川)などの河口近辺の肥沃な土地では穀物,ブドウ,オリーブなどがつくられ,付近の山々からは木材や鉄,銅,銀などが産出された。前4世紀末にミトリダテス1世によってポントス王国が建設され,前1世紀前半にはミトリダテス6世のもとで王国は最大の繁栄を迎える。しかし,第3次ミトリダテス戦争でポンペイウスの率いるローマ軍に敗れ,前63年に6世が自殺すると,王国は東西に二分されてローマの支配下に置かれた。ポンペイウスはこの地域の都市化を促進し,交易路を整備したが,帝政期に入ってもこの地(特に東部)はローマ化の波に抗してその土着的性格を保持し続けた。
執筆者:前沢 伸行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報