ユリ科チューリップ属Tulipaの球根植物。鬱金香(うこんこう)といわれたり,ボタンユリの和名が提案されたこともあるが,チューリップの名が一般化している。花色がきわめて豊富であり,草姿も独特で,全世界に広がり親しまれている。日本では代表的球根草花であり,子どもが絵をかくと必ずチューリップを描くといわれるほど大衆に愛されている。球根は赤褐色の皮でおおわれた有皮鱗茎で,春,地上に展開する葉は広い披針状または楕円状の披針形。下部の第1葉はとくに大きい。普通3枚,ときに4~5枚生ずることもある。花茎は直立し1花を生ずるが,数花をつける品種もある。花形はコップ状,鐘状のものが多いが,花弁の形は変化が多く,また花色は赤,白,黄,ピンク,黒紫色などきわめて豊富で,絞りや花弁の底だけ色の違うものもある。花弁は6枚,おしべ6本,めしべ1本であるが,八重咲種もある。現在の園芸品種は,ほとんどは小アジア原産のトゥリパ・ゲスネリアナT.gesneriana L.(英名common garden tulip)から品種改良されたものであり,さらに,トゥリパ・フォステリアナT.fosteriana Hoog.,トゥリパ・グレイギイT.greigii Regel,トゥリパ・カウフマンニアナT.kaufmanniana Regelなどの野生種およびそれらの交雑品種が園芸品種として利用されている。日本へは文久年間(1861-64)に輸入されたとされており,商業的な球根生産の始まったのは1920年ごろ新潟県小合村(現新潟市,旧新津市)においてである。
世界的にはオランダでの品種改良,球根生産が有名で,オランダの品種登録リスト(1981)では,球根生産品種約2500が載せられている。日本では約300品種(1982)が球根生産されている。ほとんどがオランダで育成されたものであるが,日本(富山,新潟)で育成されたものもある。これらの園芸品種は次のグループ,系統に分けられている。(1)早咲種 一重系,八重系があり,草丈は低いが花色鮮明,主として花壇,鉢植えとされる。現在,球根生産は少ない。(2)中生咲種 トライアンフ系,メンデル系は草丈高く,切花,花壇,鉢植えとして利用されている。トライアンフ系は多数の品種が作出され,中心的系統となってきている。ダーウィン・ハイブリッドは戦後輸入された系統で草姿,花ともに雄大で,とくに極大輪花はみごとである。(3)遅咲種 ダーウィン系は草丈高く,花色も豊富で,花形がカップ状のいわゆるチューリップ型をしていることで,花壇,切花の中心的系統で,低温処理による促成切花の主要品種が含まれている。そのほかコッテジ,ユリ咲き,レンブラント,パーロット,遅咲八重系がある。(4)原種チューリップ トゥリパ・フォステリアナ,トゥリパ・グレイギイ,トゥリパ・カウフマンニアナおよび交雑種が主で,ほかにも花形,花色の独特のものが存在する。開花期が早く,草丈は低く,花色は豊富で,花も大きく,花壇,鉢植えとして適している。
栽培は,花壇,鉢植えで花を観賞するだけならば,球根生産栽培ほど厳重な条件,管理は必要としないが,球根底部からでる普通300本前後の根は,1本根で分岐せず再生力は貧しく弱いものであるから,根群を傷めないような土壌条件,管理がたいせつである。植付け後,春の生長期中は土壌の乾燥に,とくに注意する。植付けの深さは球高のほぼ3倍くらいを目安にする。植付時期は10~11月。球根の生産は新潟,富山を中心とする日本海沿岸の冬季湿潤で春~夏季に乾燥する地帯を適地として生産されている。これらの球根は切花(主として12~3月),花壇,鉢植えとして全国的に供給,利用されている。1本だけ植えてもよいが,花壇植えとして集団美を観賞するのもよく,開花期,花色をそろえて,1品種50球以上を単位として組み合わせると楽しめる。また,開花期間は短く,せいぜい10日間くらいであるが,早咲~遅咲種の品種を組み合わせると,1ヵ月くらいは観賞できる。鉢植えで早期開花を求める場合には,冬の低温にあわせて,1月ころに入室して保温するようにしないと満足な開花は望めない。
執筆者:中静 愰
チューリップの名はトルコ語のtülbend(モスリン,ガーゼ,転じてそれらを用いたターバンの意)から派生したもので,花の形状が類似していたためといわれる。おそらく十字軍により,12世紀にはイタリアにもたらされたと思われるが,記録に残るものでは,1554年にトルコ駐在オーストリア大使ブスベックO.G.de Busbecq(1522-92)がウィーンにもたらしたチューリップが最も古い。しかしこれが世に広まったのはスイスの博物学者ゲスナーの功績で,61年にフッガー家の要請を受けて球根をアウクスブルクへ移植し,《ドイツ植物園誌》(1561)に図版を付して詳述した。現在の栽培種の原種といわれるトルコ産のチューリップがT.gesnerianaと呼ばれるゆえんである。続いて93年にフランスの植物研究家クルシウスC.Clusius(1526-1609)がライデン大学に赴任し,美麗な花を栽培してこの地の球根産業の祖となって以来,オランダではチューリップの変種作りはまたたく間に流行し法外な投機の対象になった。とくに1634-37年の熱狂は〈チューリップ狂騒事件Tulpenwoede〉と呼ばれ,時の政府はこれに対し厳罰をもって対処したので,さしもの狂騒も鎮静した。なおA.デュマ(父)はこれを《黒いチューリップ》に描いている。原産地トルコでも18世紀前半にヨーロッパの流行が飛び火し,宮廷で盛んにこの花をめでる宴が開かれた(チューリップ時代)。球根は食料にもされ,第2次大戦中オランダ人はこれを食して飢えをしのいだという。チューリップはオランダの国花であるほか,オスマン・トルコでも国章に用いられた。花ことばは色によって異なり,赤は〈愛の告白〉,雑色は〈美しい目〉〈魅惑〉,黄色は〈見込みのない恋〉などを示す。また占星術では月にかかわる植物とみなされる。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報
… 技術面では光周性を応用したキクの促成栽培が長野県下で,電灯照明による抑制栽培が愛知県下で盛んになり,各地で促成,抑制のポットマム栽培も行われている。またチューリップ,スイセン,フリージア,アイリスなどの球根冷蔵による促成栽培が確立した。薬剤では生長促進のジベレリンの利用,矮化剤Bナインの使用による鉢草花の生産が多くなった。…
…〈オプション〉は自由な選択を意味する言葉であるが,ここにいう〈オプション〉は買付けまたは売付けすることのできる選択権付証書のこと。もともと16世紀のオランダでチューリップ球根の売買においてオプション取引が始まった。球根栽培業者は将来の球根収穫時に一定の値段で一定量の球根を引き渡す旨を記したオプションを売り出し,球根取引業者はそのオプションを買うことにより将来の価格ヘッジを行った。…
…球根類の輸出は,第2次大戦後まもなく回復し,72年には10億円の大台に乗せたが,その後は低迷している。とくにチューリップ,グラジオラスの輸出が減少し,ユリ球根が全体の80~90%を占めている。輸出先は,オランダを中心にアメリカ,カナダ,韓国等である。…
…とりわけフランス宮廷との間に頻繁な使節の交換が行われ,西方の趣味や風潮が導入され,オスマン各層に大きな刺激を与えて絢爛たる新文化を生み出した。この時代の名称は,チューリップがヨーロッパから再輸入され一種の装飾として全国に大流行し,あたかもこの花のように時代文化も華麗であったことによる。スルタンおよび大宰相はボスポラス海峡岸や首都郊外キャット・ハネに華麗な離宮や別荘を営み,政府要人や富者は日夜園遊会を催し,歌舞音曲にふけり,文人を招待し,ともにチューリップの開花を賞美し泰平を謳歌した。…
…一方,高度経済成長期に電気機器,金属・機械関係の工場が立地した。水田裏作として1952年に始まったチューリップの球根栽培はその後しだいに定着し,全国一の球根産地となった。毎年4月26日から5月5日までの10日間チューリップフェアが催され,30万近い観光客を集めている。…
※「チューリップ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
突発的に発生し、局地的に限られた地域に降る激しい豪雨のこと。長くても1時間程度しか続かず、豪雨の降る範囲は広くても10キロメートル四方くらいと狭い局地的大雨。このため、前線や低気圧、台風などに伴う集中...