改訂新版 世界大百科事典 「チューリップ時代」の意味・わかりやすい解説
チューリップ時代 (チューリップじだい)
トルコ語でラレ・デウリLāle devriといい,オスマン帝国アフメト3世Ahmet Ⅲ(在位1703-30)の時代,スルタンの女婿で風流の聞え高いイブラヒム・パシャİbrahim Paşa(?-1730)が大宰相(サドラザム)に就任していた執政期(1718-30)を指す。この時代は,大宰相の開明的な識見と有能な才能により,対外的には宥和政策,内政的には異例の泰平唯美主義の時代を招来した。とりわけフランス宮廷との間に頻繁な使節の交換が行われ,西方の趣味や風潮が導入され,オスマン各層に大きな刺激を与えて絢爛たる新文化を生み出した。この時代の名称は,チューリップがヨーロッパから再輸入され一種の装飾として全国に大流行し,あたかもこの花のように時代文化も華麗であったことによる。スルタンおよび大宰相はボスポラス海峡岸や首都郊外キャット・ハネに華麗な離宮や別荘を営み,政府要人や富者は日夜園遊会を催し,歌舞音曲にふけり,文人を招待し,ともにチューリップの開花を賞美し泰平を謳歌した。この時代の代表詩人としてネディムが名高い。1730年のパトロナ・ハリルの乱で終息。
執筆者:三橋 冨治男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報