カノーバ(読み)かのーば(英語表記)Antonio Canova

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カノーバ」の意味・わかりやすい解説

カノーバ
かのーば
Antonio Canova
(1757―1822)

イタリアの新古典主義の彫刻家。ベネト地方のポッサーニョに生まれる。1768年、パニャーノの彫刻家ジュゼッペ・ベルナルディ(通称トルレッティ)に入門し、同年ないし翌年、師とともにベネチアに赴く。73年の師の没後も数年間ベネチアにとどまって活動し、この時期の作品に『ダイダロスとイカロス』(1778・ベネチア・コルレール美術館)がある。79年ローマナポリポンペイパエストゥムなどを訪れ、80年ベネチアに帰るが、翌年ふたたびローマに旅立ち、以後生涯を通じてローマを中心的活動の場とした。

 彼の様式形成に関与して力のあったものの一つに、凡庸な画家ながら優れた知識人であったスコットランド人、ガビン・ハミルトンによる古代美術への手引きがあったと思われる。教皇クレメンス14世墓碑彫刻(1783~87・サンティ・アポストリ聖堂)は彼の名声を不動のものとし、そのほか『アモールとプシュケ』(1787~93・ルーブル美術館)など古代的主題の作品をはじめ、『マリア・クリスティーナの墓碑』(1798~1805・ウィーン、聖アウグスティヌス修道会聖堂)、そのほか数多くの貴顕の肖像を制作した。さらにナポレオンの巨大な裸像(1810・ロンドン、アプスレイ・ハウス)、およびその妹パオリーナの半裸像(1805・ボルゲーゼ美術館)など、ナポレオンとその家族の肖像彫刻などもつくっている。

 彼の作品は、抑制された、ほとんど無感動な表情単純化された清楚(せいそ)な面処理、平面的な結構などを特色としている。ポッサーニョには、彼の生家に隣接して石膏(せっこう)塑形陳列館があり、多数の習作塑像が保存されている。今日のカノーバに対する評価は、生前この芸術家が受けた美術史上まれにみるほどの高い評価には及ばない。

[西山重徳]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カノーバ」の意味・わかりやすい解説

カノーバ
Canova, Antonio

[生]1757.11.1. ベネチア,ポッサーニョ
[没]1822.10.13. ベネチア
イタリアの彫刻家。ベネチアで修業。 1779年,『ダエダルスとイカルス』 (ベネチア,コレル美術館) を制作したのちローマに行き,『テセウスとミノタウルス』 (1782,ロンドン,ロンドンデリー卿コレクション) ,『教皇クレメンス 13世の記念碑』 (87~92,サン・ピエトロ大聖堂) などを制作。 B.トルバルセンと並ぶ新古典主義の代表的彫刻家として大きな名声を得る。 98年ウィーンに行き,1802年にはナポレオン1世に招かれてパリにおもむき,裸体の大理石像『ナポレオン像』 (1802~10,ロンドン,アスプレイ・ハウス) ,『ポリーヌ・ボルゲーゼの像』 (05,ローマ,ボルゲーゼ美術館) などを制作し,フランス美術に大きな影響を与えた。

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