海外投資を促進させ,もって海外市場を広げ,政治的・経済的影響力の増大をはかろうとするアメリカ外交政策の流れをいう。とくに20世紀初頭タフト大統領とノックス国務長官によって,中南米と東アジアで強力に推進された。このような経済的な外交政策の平和的性格を強調したタフトが,〈弾丸に代えるにドルをもってする〉と述べたことからこの名がつけられた。当時,資本主義の発達によって国内に余剰資本が累積し,資本と商品の国内市場が狭隘になるにつれて,アメリカの銀行家たちはとくに海外投資への関心を強めており,タフトは彼らと協力し,カリブ海地域や中国を中心に海外投資を推進した。1907年ドミニカへの借款の保障として税関吏に対するアメリカの管理権を認めさせ,次いでニカラグア,ホンジュラスとも同様の条約を締結させたり,11年には鉄道建設のため中国と交渉中のイギリス,フランス,ドイツからなる国際借款団に自国の銀行家グループを参加させて中国での影響力を強めようとしたりしたのが,その典型例としてあげられる。ドル外交は中国では実質的成果をあげなかったものの,中米では着実な成果をあげた。同外交は次のウィルソン大統領が反対し,以後衰微したとされる。しかし,軍事力を後ろだてとし,海外投資の場の積極的拡大をはかろうとしている点では,ドル外交の本質は今日まで続いているといえよう。
執筆者:進藤 栄一
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本来、「弾丸のかわりにドルを用い」て、アメリカの海外における政治的、経済的利害を増進することを目ざしたタフト政権(1909~13)の外交を特徴づける用語であったが、広義にはアメリカ帝国主義外交をさす。タフト政府が発足するや、新任のノックス国務長官は、ハンチントン・ウィルソンら国務省官僚の助言で国務省機構改革を断行し、グローバルな通商拡張政策を展開した。中国では、アメリカ銀行団、国務省、ストレイトWillard D. Straight(1880―1918)の三者の合作により門戸開放のための「ドル外交」を推進。満州鉄道借款、湖広鉄道借款などをめぐり列強と協調あるいは抗争した。ノックスの満州鉄道中立化案、対華六国借款団参加もその一環である。また戦略的に重要なカリブ海地域を制するため、ドミニカ、ニカラグア、ハイチの金融的保護国化を画策し、中近東でも、トルコやペルシアで緒についたアメリカ資本進出を積極的に支援した。
[高橋 章]
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アメリカのタフト大統領(在任1909~13)が彼の外交を軍事干渉ではなく,経済的・金融的な手段により,すなわち「弾丸に代わりドルをもって」実施すると宣言したことに由来する。この外交はカリブ海,中南米に対し典型的にみられたほか,中国における「門戸開放」の原則を守るために,アメリカ資本が参加する南満洲鉄道の中立化案にも同じ発想があった。後者は日本とロシアの反対で失敗した。
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