ドル外交(読み)ドルガイコウ(その他表記)dollar diplomacy

翻訳|dollar diplomacy

デジタル大辞泉 「ドル外交」の意味・読み・例文・類語

ドル‐がいこう〔‐グワイカウ〕【ドル外交】

資本力を背景に対外進出をはかる米国外交政策。特に、20世紀初頭のタフト政権の外交政策をさす。

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精選版 日本国語大辞典 「ドル外交」の意味・読み・例文・類語

ドル‐がいこう‥グヮイカウ【ドル外交】

  1. 〘 名詞 〙 二〇世紀初頭のアメリカの外交政策。特に中央アメリカカリブ海など戦略的に重要な地域における商業的・金融的利益追求のため政府権力を活用したタフト大統領の外交政策をさす。広義には、軍事力を背景にしたアメリカの海外投資拡大政策一般をいう。

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改訂新版 世界大百科事典 「ドル外交」の意味・わかりやすい解説

ドル外交 (ドルがいこう)
dollar diplomacy

海外投資を促進させ,もって海外市場を広げ,政治的・経済的影響力の増大をはかろうとするアメリカ外交政策の流れをいう。とくに20世紀初頭タフト大統領とノックス国務長官によって,中南米と東アジアで強力に推進された。このような経済的な外交政策の平和的性格を強調したタフトが,〈弾丸に代えるにドルをもってする〉と述べたことからこの名がつけられた。当時,資本主義の発達によって国内に余剰資本が累積し,資本と商品の国内市場が狭隘になるにつれて,アメリカの銀行家たちはとくに海外投資への関心を強めており,タフトは彼らと協力し,カリブ海地域や中国を中心に海外投資を推進した。1907年ドミニカへの借款の保障として税関吏に対するアメリカの管理権を認めさせ,次いでニカラグアホンジュラスとも同様の条約を締結させたり,11年には鉄道建設のため中国と交渉中のイギリス,フランス,ドイツからなる国際借款団自国の銀行家グループを参加させて中国での影響力を強めようとしたりしたのが,その典型例としてあげられる。ドル外交は中国では実質的成果をあげなかったものの,中米では着実な成果をあげた。同外交は次のウィルソン大統領が反対し,以後衰微したとされる。しかし,軍事力を後ろだてとし,海外投資の場の積極的拡大をはかろうとしている点では,ドル外交の本質は今日まで続いているといえよう。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドル外交」の意味・わかりやすい解説

ドル外交
ドルがいこう
Dollar Diplomacy

アメリカの第 27代大統領 W.タフト (在任 1909~13) と国務長官 P.ノックスが推進した外交政策。アジアおよびラテンアメリカにおいてアメリカの海外投資を奨励し,それによってアメリカ商品の進出を助けるとともに,その国におけるアメリカの政治的影響力を強めようとしたもの。タフトが教書のなかで自己の政策を「弾丸に代えるにドルをもってするものである」と述べてから,この名前が生れた。中国において満州 (現東北地方) の鉄道に対する国際借款団をつくり,アメリカ資本を中国に投資させようとした事件,同じ頃ニカラグアに対し武力による干渉を行なった事件は代表的な例。特にカリブ海地域に対してはドルと海兵隊による帝国主義的支配が強力に推進された。ドル外交は次の T.W.ウィルソン大統領の反対で次第に衰退し,1930年代にいたって F.ルーズベルト大統領の善隣政策に取って代られた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドル外交」の意味・わかりやすい解説

ドル外交
どるがいこう
dollar diplomacy

本来、「弾丸のかわりにドルを用い」て、アメリカの海外における政治的、経済的利害を増進することを目ざしたタフト政権(1909~13)の外交を特徴づける用語であったが、広義にはアメリカ帝国主義外交をさす。タフト政府が発足するや、新任のノックス国務長官は、ハンチントン・ウィルソンら国務省官僚の助言で国務省機構改革を断行し、グローバルな通商拡張政策を展開した。中国では、アメリカ銀行団、国務省、ストレイトWillard D. Straight(1880―1918)の三者の合作により門戸開放のための「ドル外交」を推進。満州鉄道借款、湖広鉄道借款などをめぐり列強と協調あるいは抗争した。ノックスの満州鉄道中立化案、対華六国借款団参加もその一環である。また戦略的に重要なカリブ海地域を制するため、ドミニカ、ニカラグア、ハイチの金融的保護国化を画策し、中近東でも、トルコやペルシアで緒についたアメリカ資本進出を積極的に支援した。

[高橋 章]

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百科事典マイペディア 「ドル外交」の意味・わかりやすい解説

ドル外交【ドルがいこう】

ドルの力を背景とする米国外交全般をいうこともあるが,特に20世紀初めのタフト政権の外交政策をいう。タフトは中国の鉄道投資によって中国における発言権強化を試み,カリブ海地域では小国の負債の肩代りや税関管理により,この地域における支配力を強化した。
→関連項目ロッジ

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ドル外交」の解説

ドル外交(ドルがいこう)
Dollar Diplomacy

アメリカのタフト大統領(在任1909~13)が彼の外交を軍事干渉ではなく,経済的・金融的な手段により,すなわち「弾丸に代わりドルをもって」実施すると宣言したことに由来する。この外交はカリブ海,中南米に対し典型的にみられたほか,中国における「門戸開放」の原則を守るために,アメリカ資本が参加する南満洲鉄道の中立化案にも同じ発想があった。後者は日本とロシアの反対で失敗した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ドル外交」の解説

ドル外交
ドルがいこう
Dollar Diplomacy

ドルによる海外投資により,国際的な政治・経済的な影響力を高めようとするアメリカの外交政策
アメリカ大統領タフト(在任1909〜13)が推進し,名称の由来も「弾丸にかえてドルを」という彼の言葉にもとづく。一般に借款供与・資本輸出を基礎に,カリブ海・ラテンアメリカ・中国で国家権益の拡張をはかる,20世紀初頭以後のアメリカの世界政策をいう。パン−アメリカ主義の経済的側面をなし,中国では門戸開放政策の新段階を意味した。

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