一般的には先進国の大手民間企業が利潤を追求するために外国に資本を投下することで、対外投資ともいう。資本輸出には二つの基本的な形態がある。一つは、外国における企業の創設、鉄道建設、鉱山開発などを通じて利潤を獲得することを目的とする産業資本の輸出であり、いま一つは、外国政府債券の買い入れ、借款供与、銀行貸付など、利子獲得を目的とする貸付資本の輸出である。また輸出される資本は、その性格により、国家資本と民間資本とに分けられる。民間資本輸出のうち、相手国の企業支配の可能性をもつ資本輸出を直接投資とよび、株式や債券購入を目的とする投資を間接投資(証券投資)とよび、両者を区別している。
資本輸出が活発になったのは、19世紀末期からである。この時期には、先進国の資本主義は帝国主義政策をとり、かつての自由競争段階の商品の輸出にかわって資本の輸出を増大させた。すなわち、当時イギリスを中心とする先進資本主義諸国は、国内的には、巨大企業の支配が一般化し、投資機会が少なく、膨大な資本過剰に直面した。その結果、巨大企業は、高利潤率と高利子率を求めて、資本が不足し、地価・賃金・原料の安い植民地・発展途上国に資本を輸出するようになった。植民地・発展途上国に輸出された資本は、主として鉱山の開発、輸出向け農産物の栽培、低賃金を利用した軽工業への投資など、住民を搾取し、利潤を獲得するために使われた。こうして被資本輸出国は、先進国の資本によって原料を独占され、開発のために先進国の商品輸入を義務づけられ、資本主義世界市場に巻き込まれた。他方、資本輸出国の企業は、資本輸出を通じて超過利潤を獲得したため、多くの金利生活者や不生産的階層をつくりだし、経済全体の活性化を失うようになった。第二次世界大戦前の資本輸出の特徴は、おもにイギリスをはじめとする先進資本主義国から植民地・発展途上国への資本輸出にみられた。
これに対して第二次世界大戦後は、アメリカが世界最大の資本輸出国となり、アメリカを中心に西ヨーロッパや日本のような先進国間の資本輸出が急速に増大した。戦後ただちにアメリカは、膨大な生産力を背景に、西ヨーロッパおよびその他の自由主義諸国に対して、国家資本からなる資本輸出を、経済援助という名のもとに展開した。その額は、1949年から1958年までに合計650億ドルに達し、被援助国は、その援助資金で、アメリカの商品を輸入したり、自らの経済復興に努めた。1960年代になると、アメリカの企業による西ヨーロッパへの直接投資が増大した。1974年末の海外直接投資残高は2261億ドルで、そのうちの53%がアメリカの直接投資であった。その中心の担い手は多国籍企業で、直接投資を通じて海外での生産活動を活発化した。さらに1970年代後半以降になると、西ヨーロッパ、日本の企業の直接投資も積極的になり、米・欧・日の多国籍企業中心の相互直接投資という資本輸出形態が軸になった。
1990年代から2000年にかけての先進国の直接投資は、先進国間の相互直接投資を活発化させると同時に、東アジア、中国などへの直接投資を積極的に展開している。直接投資のメリットは、受け入れ国にとって安い労働力を提供するという雇用創出効果をあげたり、経営・技術の移転によって生産性の向上をもたらしたり、現地企業と競争したり、さらに付加価値を高めることもした。だが不況などに直面すると現地から資本を引き揚げたり、失業を逆につくりだしたりする。1990年代の世界経済における直接投資の特徴は対中国を中心に東アジアで急増した点にある。製造業、なかでも機械、自動車、電機、化学などの産業への投資が目だった。さらに1990年代にはサービス業への投資も増加した。この直接投資の要因は、第一に安い労働力の活用、第二に市場の確保を通して安定的経営を図ること、第三に現地で生産し、海外(自国も含めて)へ輸出することなどである。東アジアにおける直接投資の特徴は、地域間相互投資が増大し、地域経済圏を形成し、生産、流通、消費の地域循環をつくりだしていることで、生活向上に役立っているともいわれている。1990年代初めの対外直接投資は年平均約2800億ドルであったが、2000~2002年には年平均約8530億ドルへと増加し、10年間で3倍増であった。この海外投資の主要担い手は多国籍企業である。これら企業の上位100社の全資産は約6兆ドルで、世界の全直接投資の約40%を占めている。アメリカ、日本、ドイツ、イギリスなどの多国籍企業の市場支配力が目だっている。多国籍企業の進出先の地域では環境問題にも責任をもってほしいという要望が出ている。最近では、多国籍企業は前記の地域だけでなく中国、インド、アフリカ、中東、南米への進出も目だっている。2008年の金融大不況に直面し、投資規模は減少している。
[清水嘉治]
『宮崎義一著『現代資本主義と多国籍企業』(1982・岩波書店)』▽『奥村茂次編『現代世界経済と資本輸出』(1988・ミネルヴァ書房)』▽『清水嘉治著『世界経済の統合と再編』(1997・新評論)』▽『岩田勝雄著『現代国際経済分析論』(2006・晃洋書房)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…投機家は為替相場の上昇がこれ以上起こらないと判断したとき,移動させた資本を国内(あるいは第三国)へ再び戻すため,投機時と逆方向の資本移動を一定期間後にひき起こす。国際資本移動はしばしば,国際投資,外国投資,対外投資,資本輸出,資本流出等とも呼ばれる。資本受入国の側からの表現では,資本輸入,資本流入となり,また外資導入ともいう。…
※「資本輸出」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新