ナーティヤシャーストラ(英語表記)Nāṭya-śāstra

改訂新版 世界大百科事典 「ナーティヤシャーストラ」の意味・わかりやすい解説

ナーティヤ・シャーストラ
Nāṭya-śāstra

サンスクリットで書かれたインド古典劇に関する演劇論書。バラタBharata仙の作といわれるので,通常《バーラティーヤ・ナーティヤ・シャーストラBhāratīya Nāṭya-śāstra(バラタの演劇書)》と呼ばれる。成立年代は不明であるが,3世紀ころと推察される。現存の数種の写本はいずれも不完全で,内容にも差異がある。サンスクリット演劇に関する各種の理論,すなわち戯曲の種類,劇の構成,筋の運び,登場人物,演技,用語,俳優,劇場,衣装,舞踊,音楽などの規定から,さらに韻律修辞法,詩論などにも言及し,この種の著作としては最も古く,権威のあるものとされている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナーティヤシャーストラ」の意味・わかりやすい解説

ナーティヤ・シャーストラ
Nāṭya-śāstra

インドの演劇・舞踊・音楽の理論書。6~8世紀頃インド最初の音楽理論家として知られるバーラタによって著わされたといわれるが,内容の主要部は2~5世紀に固まった。 36章に分れ,神話的起源に始り,劇場の構造,ラサ (情調) の理論,身ぶり表現,身体の動き,化粧,衣装,上演の分析,劇の詩的要素,韻律,音楽理論,楽器,歌,演劇の登場人物の性格,俳優の訓練,演劇評論など多岐にわたる。特にバーラタが分析したラサは,のちのインドにおける文学,美術,建築,音楽,舞踊などの美学の概念を作り上げた。演者観客の心に潜在する8種のラサ (恋情,憤怒,勇武,憎悪,滑稽,悲愴,奇異,驚愕) を喚起させるのを目的とし,したがって劇の筋,配役,俳優の使用言語,演技,表現,扮装などが規定されるとする。後世劇作術は,ほとんどすべてがこの書によるといえる。また,バーラタが記した身体表現は南インドのチダンバラム寺院にある浮彫り彫刻の 108像のカラナのポーズ (姿態) にみることができる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナーティヤシャーストラ」の意味・わかりやすい解説

ナーティヤ・シャーストラ
なーてぃやしゃーすとら
ya-śāstra

現存するインド最古の演劇理論書。サンスクリットで書かれ、もっとも権威ある書として後世に大きな影響を与えたが、現存する数種の写本は不完全で内容にも差がある。成立年代は不明であるが、2世紀にはすでに存在していたと推測され、古来から作者は聖仙バラタBharataと伝承されている。後世の古典サンスクリット劇の創作と鑑賞の規範となった各種の理論、すなわち劇場の規模、舞台装置、衣装、演技、俳優、観客、劇の構造と筋の仕組み、登場人物、使用言語の種類とその修辞法や韻律、戯曲の種類などが規定されている。とくに、劇的効果が観客に与える心理的影響を分析、整理した「ラサ」rasa原義は「味」、転じて情調)の理論は、後世の戯曲のみならず、韻文学を含めたインド古典文学の理論体系の中核となった。

[町田和彦]

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百科事典マイペディア 「ナーティヤシャーストラ」の意味・わかりやすい解説

ナーティヤ・シャーストラ

古代インドの演劇論書。バラタBharata仙の作と伝えられるが,成立年代不明。サンスクリット演劇に関する各種の理論を36章に分けて論じている。

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世界大百科事典(旧版)内のナーティヤシャーストラの言及

【インド演劇】より


[インド劇の起源]
 伝説によれば,バラタ仙が梵天の命によって神々のために戯曲を創始し,これを人間界に伝えたのだという。インドの最古にして最も権威ある演劇論書は,このバラタ仙の名を冠して《バラタのナーティヤ・シャーストラBhāratīya Nāṭya‐śāstra》とよばれ,天界の演劇法を人間界に適応するように改めたものといわれている。しかし,このような伝説的起源は別としても,インド劇の歴史的起源に関する的確な証拠は見当たらない。…

【音楽】より

…その一部である声明は中国を経由して日本に伝えられ,今日まで伝承されている。 インドの音楽理論は独特なもので,最古の楽劇論書《ナーティヤ・シャーストラ》には7声,22律の理論を含む詳細な楽理の体系が展開されている。13世紀初頭に著された楽書《サンギータ・ラトナーカラ》はそれ以前のインド音楽の大要を記した貴重な文献である。…

【カタック】より

…起源や成立は不詳。《ナーティヤ・シャーストラ》を基本とするヒンドゥー教社会におけるインドの舞踊の特徴と,ムガル王朝期のペルシア的な舞踊の特徴を兼ねそなえた舞踊である。歴史的には16世紀から18世紀にかけての細密画の中に,カタックの前身といえる舞踊の絵があり,その後,現在のカタックへと発展していったことがうかがわれる。…

※「ナーティヤシャーストラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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