ラサ(読み)らさ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラサ」の意味・わかりやすい解説

ラサ
らさ / 拉薩

中国、チベット自治区中南部にある地級市。同自治区最大の都市で、自治区の首府である。青蔵(せいぞう)高原南部、ヤルンズアンボ江(ブラマプトラ川上流)支流ラサ河中流域に位置する。標高3600メートル。2市轄区、ダムション、ニェモなど6県を管轄下に置き(2016年時点)、ナム湖、ニェンチェンタンラ峰などを市域に含む。人口57万6100(2011)。ラサの日照時間は長く、年間3000時間を超えるため「太陽の町」とよばれる。

 ラサ河の河谷では主食とされる青稞(チンコー)(ハダカエンバク)やエンドウのほか小麦の栽培も盛んである。工業は民族手工業の割合が高いが、衣服、せっけんなどの部門は協同組合方式による集団制手工業工場が多い。比較的大きな工業企業としては、中華人民共和国成立直後には能力の低い水力発電所、製紙工場、造幣所のみであったが、1953年に設立されたカーペット工場をはじめ、1960年送電を開始したガチェン水力発電所を基礎に、国営製粉工場、農機具工場、搾油工場などが建設され、工業化が進んでいる。

 市内にはポタラ宮(1994年「ラサのポタラ宮歴史地区」として世界遺産の文化遺産に登録)、ノブリンカ離宮、大昭寺、セラ寺などの旧跡、寺院がある。川蔵・青蔵・新蔵・滇蔵(てんぞう)の四つの自動車道や、ツォモ、ツォナへの自動車道が通り、隣接するロカ市のラサ・クンガ空港からは成都(せいと)や西安(せいあん)への航空路が開かれている。

[駒井正一・編集部 2017年9月19日]

歴史

古代チベット王国(吐蕃(とばん))の夏の住地であったラサに、640年、中国から初代チベット王ソンツェンガンポの長子に嫁いできた文成(ぶんせい)公主はラモチェ寺(小昭寺)を建立した。のちにトゥルナン寺(大昭寺)もここに建立された。金城公主(?―739)も710年ティデツクツェン王に嫁ぐためこの地に至り、唐との会盟を記念した石碑唐蕃会盟碑)も823年にここに立てられ、チベットの政治と文化の一中心地となった。ランダルマ王の破仏による混乱を経て、11世紀前後にふたたび仏教が盛んになると、トゥルナン寺(別称チョカン)に対する尊崇も集まり、1190年にはヤツェ王が黄金の屋根を献じている。

 その後、各宗派と大貴族の消長に応じて支配権も移動したが、チベット全土を平定したグシ・ハン(顧実汗。1582―1656)は、1642年に全権をダライ・ラマ5世(1617―1682)にゆだね、5世は1645年ポタラ宮の造営を開始し、摂政(せっしょう)サンギェギャツォ(1595―1658)が1648年白宮(政治と生活の場)を完成させた。サンギェギャツォの死後も工事は続き、1693年に紅宮(宗教の場)が完成、ラサは以後の政教の中心地となった。

 その後も何度か外国軍の侵入を受け、1951年には中国人民解放軍に支配され、チベット自治区の首府となった。

[原田 覺 2017年9月19日]

『R・A・スタン著、山口瑞鳳・定方晟訳『チベットの文化』(1971・岩波書店)』


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