ニコラウスクサヌス(その他表記)Nicolaus Cusanus

デジタル大辞泉 「ニコラウスクサヌス」の意味・読み・例文・類語

ニコラウス‐クサヌス(Nicolaus Cusanus)

[1401~1464]ドイツ神学者哲学者神秘主義と自然科学調和を目ざす独自の哲学を説き、地球球体説を擁護し、近世への道を開いた先駆者といわれる。著「知ある無知」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「ニコラウスクサヌス」の意味・わかりやすい解説

ニコラウス・クサヌス
Nicolaus Cusanus
生没年:1401-64

ドイツの哲学者,神学者,数学者,枢機卿。モーゼル河畔ベルンカステル・クースの出身。共同生活兄弟会の学校で初等教育を受け,ハイデルベルクパドバケルン大学で学び,教会法の学位を得た。司祭としてカトリック教会内の公会議派と教皇派,後には東西教会の和解に尽力したが,後者の仕事は東方のプラトン哲学研究者との接触の機会となった。1448年枢機卿に任ぜられ,教会改革のために奔走した。こうした激務の間に多くの哲学,神学,数学の著作を書いたが,主著は《普遍的和合について》《知ある無知》《推測について》である。その思想は,一方では〈隠れたる神〉の探究キリスト中心主義,およびエックハルトとの親近性などにもとづいて中世との連続性を含み,他方ではもろもろの対立的要素の和解を追求し,全宇宙を反映する個体という考えをうちだしたことのゆえにライプニッツの先駆者とされ,シェリング,ヘーゲルとの類似性も指摘される。しかし,より妥当な解釈は,個体の重要視,数学・科学的研究の強調,世界はある意味で無限であるとする自然観などのゆえに,典型的なルネサンス人文主義者,過渡期の思想家として位置づけることであろう。

 彼の思想の中心原理は〈対立物の一致coincidentia oppositorum〉である。有限者においては存在と本質の区別をはじめ,さまざまの区別や対立が見いだされるが,無限なる神においてそれらはすべて一致する。実に絶対者たる神は最大であると同時に最小であり,〈対立物の一致〉である。人間理性は有限者から出発して,そこで反映されている無限者の認識に近づくのであるが,すべての比例を超越する神を把握することは決してできない。しかし,この無知は単なる無知ではなく,神へと近づくにつれて深まる無知であり,その意味で〈知ある無知docta ignorantia〉である。他方,超越的で知り尽くしがたい神は,世界においてみずからを顕示する。創造は神の自己開示であり,宇宙は〈縮限された無限者〉と呼ばれ,無限者を反映する個々の被造物はいわば〈創造された神〉であるといわれる。小宇宙である人間は,もろもろの個体のなかで宇宙をもっともよく反映し,神的な〈対立物の一致〉をも不完全ながら反映するが,この一致の完全な表現は〈神にして人〉であるキリストにおいて見いだされる。その意味でクサヌスの思想はキリスト中心主義といわれる。また思想の中心には偽ディオニュシウスやエリウゲナから受けつがれた観念が見いだされ,その意味で彼はルネサンス期のプラトン主義者の一人に数えられる。
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百科事典マイペディア 「ニコラウスクサヌス」の意味・わかりやすい解説

ニコラウス・クサヌス

ドイツの哲学者,神学者,枢機卿。ドイツ西部,モーゼル河畔の町クースに生まれる。ハイデルベルク,パドバ,ケルンの各大学に学ぶ。カトリック改革派の要人として教会刷新,東方教会との合同に努めるかたわら,旺盛な著述活動を行った。著作には,〈対立物の一致coincidentia cppositorum〉,〈知ある無知docta ignorantia〉といった原理を含む《知ある無知》のほか,《普遍的和合について》《推測について》《隠れたる神》《コーランの精査》などがある。中世から受け継いだプラトン主義,ライプニッツらに繋がる数理主義,キリスト中心の敬虔主義を一丸とした独創的思想は,先駆的な発露と称するにふさわしい。
→関連項目ニコラウス[5世]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニコラウスクサヌス」の意味・わかりやすい解説

ニコラウス・クサヌス
にこらうすくさぬす

ニコラウス・クザーヌス

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世界大百科事典(旧版)内のニコラウスクサヌスの言及

【神秘主義】より

敬虔主義【上田 閑照】
【近・現代における神秘主義運動とその周辺】
 ルネサンス以降の西欧の神秘主義は,時代精神にふさわしく叡智と神秘体験のかかわりに注目した。知識を超えた知識,すなわち〈無知の知docta ignorantia〉によって〈反対の一致coincidentia oppositorum〉たる神を認識しようとしたニコラウス・クサヌスや,理性を重要視したスピノザがその代表者である。したがって,この潮流は太古の叡智を再発見するオカルティズムとも重なり,エジプトやギリシアの神秘哲学を再興するフィチーノらのヘルメス思想を経由して,J.ディーやJ.V.アンドレーエによる薔薇十字思想(薔薇十字団),マルティネス・ド・パスカリやサン・マルタンを代表とするマルティニスムなどへ分離発展した。…

【スコラ学】より

…それは中世的な学問形態の終末であると同時に,新しい学問形態の端緒でもある。これとは別の意味でスコラ学の終点に位置するのが,学問の中世的特色と近代的傾向とを対立のまま両立させた15世紀のニコラウス・クサヌスである。スコラ学は16,17世紀に偉大なトマス注釈家たち(カエタヌス,ビトリア,スアレス)によって復興され,さらに19世紀後半に起こったトマス哲学再生運動にともなって〈新スコラ学〉の名の下に影響力を回復する(トミズム)。…

【帝国改革】より

…版によって重点のおき方は異なるが,そこでは都市や農村における体僕制(不自由)を廃棄することも主張されている。 ニコラウス・クサヌスは同じころ《教会一致論De concordantia catholica》(1433)を著し,人間は生来自由な存在で理性をもち,自己のなかに法をもっているという前提から出発して,支配者は自由な同意によって正当化されるべきであり,同意は選挙によって表現されると主張した。彼は教皇の至上権を否定し,むしろ帝国都市を改革の主体として位置づけている。…

【ドイツ神秘主義】より

…中世後期から近世にかけて,一連の系譜をなすドイツ人神秘家たちによって担われたキリスト教神秘主義の歴史的形態。狭義には,14世紀前半のエックハルトゾイゼタウラーを中心にした活動とその思想をさし,広義には,その3者以前のビンゲンのヒルデガルトやマクデブルクのメヒティルトMechthild von Magdeburg(1210ころ‐82か94)などの女性神秘家たち,および3者以後その精神をさまざまな変容において継承・展開したニコラウス・クサヌスベーメ,さらにはドイツ・ロマン主義のノバーリス,ドイツ観念論のフィヒテ,シェリングなどに及ぶ精神的系譜を総称する。ドイツ神秘主義は,キリスト教史の枠を越えてヨーロッパ精神史を貫流する一大潮流をなしている。…

【ファン・デル・ウェイデン】より

…推定生年からすれば,カンピン工房への入門は27歳ころとなり,当時の慣行では異例に遅い。50年の聖年にローマを訪れたと信ぜられ,51年ドイツの神学者ニコラウス・クサヌスはファン・デル・ウェイデンがブリュッセル市役所に描いた板絵に触れて〈最大の画家〉と呼び,56年にはイタリアで世界の四大画家の一人に数えられた。 作品はいずれも年記や署名を欠くが,最大の基準作は《十字架降下》(1443以前,プラド美術館)であり,それとフレマールの画家に帰される作品との顕著な相似は,初め後者をファン・デル・ウェイデンの弟子とする説を生み,次いでフレマールの画家の作品をファン・デル・ウェイデンの若描きと考え,現在ではフレマールの画家すなわちカンピンをファン・デル・ウェイデンの師とみなすように変わってきた。…

※「ニコラウスクサヌス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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