ヌカカ(読み)ぬかか(英語表記)biting midges

改訂新版 世界大百科事典 「ヌカカ」の意味・わかりやすい解説

ヌカカ (糠蚊)
biting midge

双翅目ヌカカ科Ceratopogonidaeの昆虫の総称。約60属に分かれ,このうち4属は人畜から吸血する衛生害虫である。いずれも体長1~2mmと小型で,多くが翅に斑紋をもち,静止するときは翅を重ね合わせる。日本産のヌカカのうち約20種の雌が人吸血性をもつとされている。おもに朝夕屋外で,肌の露出部,ときに衣服の内側に入って吸血する。幼虫は池,沼,川などの底に発生するので,刺咬被害はこうした発生場所付近で多い。海岸近くの沼に発生するイソヌカカは磯で釣りをする人を襲い,電灯に誘われて屋内で刺すこともある。ヌカカの刺咬は激しいかゆさを伴い,大発生すると屋外労働が不可能になったりするが,日本では人の疾病伝播(でんぱ)はない。ニワトリヌカカCulicoides arakawaiが鳥のロイコチトゾーン症を伝播する。アフリカや南アメリカなどでは人のシジョウチュウ症や家畜のウイルス病を伝播する例が知られている。しかし多くのヌカカは花みつを餌としたり,他の昆虫,例えばトンボの翅に付着してその体液を吸う。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヌカカ」の意味・わかりやすい解説

ヌカカ
ぬかか / 糠蚊
biting midges

昆虫綱双翅(そうし)目糸角亜目ヌカカ科Ceratopogonidaeの昆虫の総称、またはそのなかの1種。この科の種は体長1.3~2ミリメートルの微小昆虫で、微細なカの意味でヌカカとよばれ、地方によりヌカブユともいう。ユスリカ成虫に似るが、発達した刺咬(しこう)吸血性口器をもち、はねの中脈が普通枝分れし、触角は第1節が丸くて大きく、14節からなり、はねに斑紋(はんもん)をもつものが多いのが特徴。薄明薄暮、日中、夜間活動性のものなどさまざまな生活史をもつ。ヌカカ属Culicoidesのうち人畜より吸血するヌカカCulicoides obsoletusや沿岸性のイソヌカカC. circumscriptusなどが衛生害虫として重要であり、大発生する地方ではその被害は大きい。被害は昼間野外で多く刺咬され、微小で刺咬時の痛みが少ないので気づかないが、後遺症が悪化することが多い。忌避剤を体に塗ると防げる。ニワトリヌカカC. arakawaeはニワトリのロイコチトゾーン症を媒介する。ほかに海岸で人から吸血するトクナガクロヌカカLeptoconops nipponensis、トンボに外部寄生し体液を吸うトンボダニカForcipomyia tokunagai、吸蜜(きゅうみつ)性、捕食性のものなど世界で約4000種以上知られている。

倉橋 弘]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヌカカ」の意味・わかりやすい解説

ヌカカ
Ceratopogonidae; biting midge

双翅目ヌカカ科に属する昆虫の総称。体長1~3mmと蚊帳の目を通るほどの微細な双翅類で,和名は糠 (ぬか) のように小さなカという意。吸血するものがあり,ヌカブユなどと呼ぶ地方もある。翅は暗色で白斑のあるものが多い。ユスリカ近縁。幼虫は線虫形で,池沼,樹洞の水,河口近くの砂浜などにすむ。雌成虫は吸血性のものが多く,薄明,薄暮,あるいは湿度の高いときに現れ,人畜,ニワトリなどから吸血する。吸血は刺咬型で,咬まれたときはそれほど痛まないが,数分後痛みとはれを起す。ヌカカ Culicoides obsoletusは日中山林内で人を襲う。沿岸性のイソヌカカ C.circumscriptusによる被害も大きい。防虫には忌避剤が有効とされる。吸血性以外のものでは他の昆虫を食べたり,花蜜をなめたりしている。 (→双翅類 )

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