日本大百科全書(ニッポニカ) 「ユスリカ」の意味・わかりやすい解説
ユスリカ
ゆすりか / 揺蚊
midges
昆虫綱双翅(そうし)目糸角亜目カ群ユスリカ科Chironomidaeの総称。この科の種類は、微小ないし小形で、カに似ているが口吻(こうふん)は短く、吸血性はない。頭部は小さく、複眼は雌雄とも離眼的。触角は細長く5~14節。雄では羽毛状を呈するものが多い。はねは普通、カのように細長いが、翅脈はまったく異なっており、前縁部に径脈(けいみゃく)は集中して終わり、径中横脈は顕著である。はねが太くて先端が丸みを帯びるものや、退化したもの、まったく無翅の種類もある。脚(あし)は細長く、とくに前脚が長いものが多い。静止時にはしばしば前脚を高くあげている。腹部は細長く、雄の交尾器は大形で外部に現れ、雌の産卵管は短い。卵は普通ゼリー状の塊の中に配列して包まれ、水中または水辺に産下される。
幼虫は水生で、細長い円筒状で、12体節がある。一部の種類では幼虫は体液にヘモグロビンを含んで赤く、観賞魚や釣りの餌となるものがある。アカムシ、アカボウフラとよばれるアカムシユスリカOrthocladius akamusiやセスジユスリカChironomus yoshimatsuiの幼虫がそれである。
ユスリカの成虫は、湖、沼、川などの水辺に多く、多くの種類が群飛して蚊柱をつくり、夜間に灯火に集まるが、食物はとらない。
数少ない海生昆虫のなかで、ウミユスリカClunio spp.とオヨギユスリカPontomyia spp.は有名である。この2属は、太平洋に直面した岩礁の多い荒磯(あらいそ)に生息し、雌は無翅で、触角と脚が著しく退化し、終生海水中から出ることがない。幼虫は海底の海藻中にすみ、老熟した蛹(さなぎ)は日没直前に海面まで上り、海面下を泳ぐ。羽化は日没後1~2時間に行われ、海面上に成虫となって出現した雄は、海面下の雌の蛹を脚で抱き、雌が羽化を始めると脱皮を手伝う。雄は雌を抱きながら海面すれすれに飛翔(ひしょう)(ウミユスリカ)、または海面をアメンボのように滑走(オヨギユスリカ)する。交尾後の雌はただちに海面で産卵し、卵塊は海中に沈む。成虫はきわめて短命である。
[伊藤修四郎]