翻訳|vanilla
ラン科(APG分類:ラン科)の多年生常緑藤本(とうほん)(つる植物)。原産地は南東メキシコから中南米の熱帯地方。つる茎の各葉の付け根から気根を出し、他の木などをよじ登り、養水分を吸って十余メートルにも伸びる。葉は肉厚、楕円(だえん)形で互生し、花は茎の先端部近くの葉腋(ようえき)に総状花序をなしてつく。花冠は黄白色、長さ約4センチメートル、ラン特有の形であるが半開きで全開はしない。果実は円柱形で三稜(りょう)があり、長さ20~30センチメートル、径約1センチメートル。花期後4か月で完熟し、黒褐色になる。内部は褐色の粘液に包まれた微小な種子が多く入っている。
高温・多湿を要する熱帯植物で、世界の熱帯で栽培される。主産地はマダガスカル島、コスタリカ、西インド諸島、インドネシア地域、オセアニアの島々などであり、19世紀から栽培が始められた。繁殖は、つる茎を短く切って挿苗をつくる。定植後3年ほどから結実を始め、以後1株から毎年数十個の果実が得られる。原産地以外では媒介昆虫がいないので、人工受粉が必要である。果実は完熟しないうちに採取して、やや乾かしてから、過乾を避けてゆっくり発酵させる。果実はしなやかなチョコレート色になり、特有の高貴で強い甘い香り、いわゆるバニラ香を発する。これは、果実に含まれるバニリン配糖体が、細胞中の酵素エムルシンによって分解され、バニラ香をもつバニリンが単離生成されるためである。
果実(バニラビーンズ)を未熟なうちに収穫、発酵させ、甘い芳香を出させて抽出した液をアルコールで薄めたものがバニラエッセンスとして市販されている。アイスクリーム、プディング、クッキー、ケーキ、キャンディ、ババロア、クリーム、菓子類やソフトドリンクの香味づけに、またたばこのフレーバーづけにも用いられる。発酵させたあとのバニラビーンズは、粉末にして洋菓子類の香味づけに用いられ、またこれを砂糖と混ぜたバニラシュガーはスウィートチョコレート作りに欠かせない。コロンブスのアメリカ大陸発見によってヨーロッパにもたらされたが、現在の主産地はインドネシアとマダガスカル島で、世界の生産高の65%以上を占めている。
[齋藤 浩 2019年5月21日]
メキシコからブラジルにかけての熱帯林の中に野生し,19世紀中ごろから栽培もされているラン科のつる植物で,香料や薬用にされる。茎は直径約1.5cm,節から太い気根を出して他物にからみつき,10m以上に伸びる。葉は長さ10~20cm,楕円形で先がとがり,花は淡緑色でトランペット状に開き,直径5~8cm,葉腋(ようえき)に20~30花ほどが房状につく。下位の花から次々に咲く,早朝に咲き夜にはしぼむ。蒴果(さくか)は長さ15~30cm,豆のさやのような形なのでバニラ豆vanilla beanと呼ばれる。初め緑色から黄色になり,4~5ヵ月でつやのある紫褐色に変わる。この果実に芳香性をもたすためには,まず加熱してそれを発酵させる。そのプロセスはいろいろであるが,一例を示すと,やや黄ばんだ未熟果をさっと熱湯に浸し,昼間は日に干し,夜間は密閉した箱に入れ,毛布でくるんでおく。こうしてなん日もかけてゆっくり発酵させると,しだいにチョコレート色に変わり,特有の甘い香りをおびてくる。でき上がりの製品はしわの多いしなしなしたひも状で,束ねて輸出する。現在はマダガスカルが主産地で,世界生産の9割を占める。調製された果実には香料成分バニリンvanillinが1~5%含まれ,細切りにしてから粉末にして使う。各種洋菓子の香味づけに用いられる。油を絞って得られるバニラ香油や,アルコールでエッセンスを抽出したバニラチンキも広く使われる。また薬用としても昔から利用され,熱病やヒステリー,月経不順などに効果があるという。
執筆者:星川 清親
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…そして仏独英3ヵ国語版が製作されたドライヤーのトーキー第1作《吸血鬼》(1931)は興行的に失敗するものの,〈音の対位法〉を探求したクレールのトーキー第1作《巴里の屋根の下》(1930)はフランスの〈トーキー映画の宣言〉となり,また,クレジットタイトルを画面に文字で出す代わりにすべて音声化,すなわち朗読してしまうというトーキーならではの試みを実現したレルビエ監督《黄色の部屋》(1930)などの成功をへて,フランス映画はトーキー時代に入る。 この時期に注目されるのは,マルセル・パニョルとサッシャ・ギトリー(ギトリー父子)という2人の演劇人の活躍で,とくにパニョルは,自作の戯曲がまずアレクサンダー・コルダ監督によって(《マリウス》1931),次いでルイ・ガスニエ監督によって(《トパーズ》1932),そしてマルク・アレグレ監督によって(《ファニー》1932)映画化されたのに刺激され,33年には映画雑誌《レ・カイエ・デュ・フィルム》を創刊し,サイレント映画がパントマイムの具象化であり完成であったのに対して〈トーキーは演劇の具象化であり再創造である〉という独特のトーキー映画論を展開,自分の映画会社を創立し,マルセイユに撮影所を建設して,みずから製作・監督に乗り出し,《アンジェール》(1934),《セザール》(1936),《二番芽》(1937),《ル・シュプンツ》《パン屋の女房》(ともに1938)等々を映画化,レーミュ,フェルナンデルといった南フランスのマルセイユなまりの名優に成功をもたらした。同じころパリでは〈芝居の神さま〉といわれたブールバール劇の作者であり演出家であり俳優であるサッシャ・ギトリーも自作の戯曲を次々に映画化し,《とらんぷ譚》(1936),《王冠の真珠》(1937)等々で徹底的な話術,〈語り〉の芸で映画に新形式をもちこみ(のちにオーソン・ウェルズに強い影響を与えた),パニョルとともに,フランス映画史に特異な地位を占めるに至った。…
…S.フロイトは潜在意識にさぐりを入れて,《機知――その無意識との関係》(1905)の中で,〈制約されていた衝動が突然満たされたときに生じる心的状態〉に笑いの発生をみているが,そこにも明らかにホッブズ流の〈笑い=勝利の表現〉という見方がみてとれる。劇作家M.パニョルが《笑いについて》(1947)で語っているところも同様である。笑いという〈この世で最も複雑な人間表現〉を定義してパニョルはこう述べている。…
※「バニラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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