バンブニスト(読み)ばんぶにすと(英語表記)Émile Benveniste

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バンブニスト」の意味・わかりやすい解説

バンブニスト
ばんぶにすと
Émile Benveniste
(1902―1976)

シリアのアレッポAleppo生まれのフランス言語学者で高等研究院教授。バンベニストともいう。メイエのもとで比較文法を学び、メイエの死後後任として1937年から1969年までコレージュ・ド・フランスの教授を務めた。おもな研究分野はイラン語、インド・ヨーロッパ諸語の比較文法および一般言語学である。1935年に博士論文『インド・ヨーロッパ語における名詞形成法の起源』を発表し、インド・ヨーロッパ祖語の語根の構造を明示した。一般言語学においては、スイスの言語学者で現代言語学の父といわれるF・ド・ソシュール理論を踏まえつつも、無限に多様な創造性を含む文を重視し、それを発する「語る主体」を復権させた。すなわち、言語記号代名詞動詞の時制などに関する考察を経て、発話行為の理論を提唱するに至った。この分野における48編の論文は『一般言語学の諸問題Ⅰ』(1966)、『一般言語学の諸問題Ⅱ』(1974)にまとめられている。

[長澤宣親 2018年7月20日]

『岸本通夫・河村正夫他訳『一般言語学の諸問題』(1983・みすず書房)』『エミール・バンヴェニスト著、蔵持不三也他訳『インド・ヨーロッパ諸制度語彙集 1・2』(1986、1987・言叢社)』『阿部宏監訳『言葉と主体――一般言語学の諸問題』(2013・岩波書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「バンブニスト」の意味・わかりやすい解説

バンブニスト
Emile Benveniste
生没年:1902-76

フランスの言語学者。巨匠A.メイエの下に学び,その死後コレージュ・ド・フランスの師のポストの後継者として印欧(インド・ヨーロッパ)語比較文法を教えたが,69年病いに倒れ引退した。18の著書と291の論文,300にのぼる書評があるが,その研究はイラン語と比較文法(比較言語学)と一般言語学の三つの領域に分けられる。彼はP.ペリオが中央アジアから持ち帰ったイラン語派のソグド語の資料の解読・研究を,早世した比較言語学者・イラン語学者ゴーティオRobert Gauthiot(1876-1916)の後を継いで志し,第2次大戦前にすでにその写本のすべてを公にしたほか,《アベスター語の不定法》,《古代ペルシア語文法》(メイエと共著),《オセット語研究》などを著した。比較文法の領域では,画期的な語根理論を提示した《印欧語の名詞形成の起源》と晩年の講義をまとめた《印欧語の諸制度の語彙》(2巻)を頂点とする。またそのおもな一般言語理論は《一般言語学の諸問題Problèmes de linguistique générale》2巻(1966)にまとめられている。
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百科事典マイペディア 「バンブニスト」の意味・わかりやすい解説

バンブニスト

フランスの言語学者。印欧比較言語学と一般言語学の両方に優れた功績を残した。A.メイエを経由してソシュール伝統を継承した彼の一般言語学の業績は,2巻の論文集《一般言語学の諸問題》(1966年―1974年)に結実している。この中には,ソシュールの説いたシニフィアンとシニフィエの関係の恣意性,また両者の結合から生じる総体であるシーニュのもつ恣意性という考え方が批判される《言語記号の性質》(1939年)の論考が含まれている。
→関連項目ディスクール

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