ソ連邦のメイエルホリドが提唱し,弟子たちにやらせた俳優の訓練法。初期のスタニスラフスキー・システムが俳優演技の基礎を内面体験におき,ひたすら〈そのつもりになる〉ことを主張したのに反発して,1917年の十月革命後提唱された。〈演劇の十月〉というアジ・プロ演劇確立の主張とほとんど時期を同じくしており,端的にいえばアメリカの技師F.W.テーラーが労働者管理の目的で唱えた肉体の効率よい使い方,すなわち〈科学的管理法〉をそのよりどころの一つとしている。余計な不随意的動きを排し,律動的に動き,身体の重心を常に正しく保つことを眼目としている。メイエルホリド自身が〈弓を射る〉〈石を投げる〉〈重い物をおろす〉〈胸にとび乗る〉など十数種類のエチュードを考案した。後期のスタニスラフスキー・システムの〈身体行動のメソード〉と共通点がなくはないが,それが演技の訓練法であるのに比べ,ビオメハニカはただの肉体訓練法であった。
執筆者:佐藤 恭子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報