日本大百科全書(ニッポニカ)の解説
ピリドキシン
ぴりどきしん
pyridoxine
水溶性のビタミン(ビタミンB6)で、ピリドキサールおよびピリドキサミンとともに補酵素ピリドキサールリン酸pyridoxal phosphate(PLP)の成分である。PLPはアミノ基転移酵素(トランスアミナーゼ)の補欠分子族(補欠分子団)として働き、多彩な補酵素としてアミノ酸の多くの反応を触媒する。その多様な反応の根底に共通してみられるのは、PLPの触媒作用における次の三つの特徴である。
(1)PLP(カルボニル成分)とアミノ酸基質(アミン成分)によってシッフ塩基schiff baseが生成する。
(2)PLPは負に荷電した触媒中間体を安定化させるための電子の受け手electron sinkとなり、PLP環にある窒素がアミノ酸基質から電子をひきつけ、電子親和性触媒electrophilic catalystとなる。
(3)次に、産物のシッフ塩基は加水分解される。
ピリドキシンは植物の種子、肝臓、ミルク、卵、葉緑植物に含まれる。幼若ラットをチアミンとリボフラビンを補ったビタミン欠乏食で飼育したときにおこる皮膚炎に対して治療効果がある。ピリドキシンの塩酸塩(分子式C8H11NO3・HCl、分子量205.64)は、水に可溶であるが、エチルアルコールには溶けにくい。
[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]