改訂新版 世界大百科事典 「フィゾスチグミン」の意味・わかりやすい解説
フィゾスチグミン
physostigmine
エゼリンeserinともいう。西アフリカ,ギニアのカラバル川流域に産するマメ科の植物Physostigma venenosumの種子に含有されるアルカロイド。この種子を現地人はエゼルマメ,白人はカラバルマメと呼んでいる。かつてギニアの原住民の間で,この豆を裁判に用い,食べて死亡すれば有罪,助かれば無罪としたと伝えられ,強い毒性を有する豆である。1865年にその毒性成分が結晶形で単離され,植物名からフィゾスチグミン,現地人の言葉からエゼリンと名づけられた。副交感神経,運動神経および自律神経節の神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素(アセチルコリンエステラーゼ)を阻害することにより,上記神経系を興奮させて複雑な反応を起こさせる。少量では徐脈,血管拡張,血圧下降作用を示すが,増量すると頻脈,血圧上昇をきたす。このほか瞳孔縮小作用,腸管運動刺激作用,中枢興奮作用をはじめ,多彩な薬理作用がある。医薬としては,麻痺性腸閉塞,排尿障害,重症筋無力症などに用いる。
執筆者:渡辺 和夫
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