ピクリン酸(読み)ぴくりんさん(英語表記)picric acid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピクリン酸」の意味・わかりやすい解説

ピクリン酸
ぴくりんさん
picric acid

2,4,6-トリニトロフェノールの慣用名。正しい組成を決定したフランスのJ・B・A・デュマが「苦い」を意味するギリシア語pikrosから、acid picrique(フランス語)の名を与えた。1885年フランスが軍用爆薬として用いるに至って、各国もこれに倣った。日露戦争では下瀬(しもせ)火薬の名で砲弾や魚雷用の炸薬(さくやく)として太平洋戦争終戦まで用いられた。しかし、打撃や摩擦に対して感度が高いこと、重金属と化合して非常に敏感な金属塩をつくること、腔発(こうはつ)(砲弾内の炸薬が発射の際の加速度により砲身内で爆発して砲身を破壊)しやすいことなどの問題点があったところが、それらの欠点のないトリニトロトルエンTNT)と異なる点である。

 導爆線の心薬(導火線または導爆線の中央に配置され、燃焼または爆轟(ばくごう)を伝播(でんぱ)する物質)、起爆薬(ジアゾジニトロフェノールDDNP)の原料、炸薬ピクリン酸アンモニウム(D爆薬=explosive D)の原料、花火の笛薬(ふえやく)の原料、爆発威力の基準爆薬などとして用いられてきた。

 製造されたときのピクリン酸は明るい黄色結晶二つの多晶形で存在するが、エタノールエチルアルコール)から再結晶すると斜方晶形の長い平たい結晶で得られる。爆速は比重1.71で毎秒7260メートルである。ピクリン酸は、フェノールのスルホン化とそれに続く脱スルホン酸ニトロ化反応を用いたスルホン化法、またはクロルベンゼンのニトロ化と生成したトリニトロクロルベンゼンの加水分解によって得られる。

吉田忠雄・伊達新吾]


ピクリン酸(データノート)
ぴくりんさんでーたのーと

ピクリン酸
分子式C6H3O7N3
分子量229.1
融点120℃
沸点325℃
比重1.767(測定温度19℃)
発火点322℃(5秒経過後発火点)
爆発熱3389kJ/kg

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピクリン酸」の意味・わかりやすい解説

ピクリン酸
ピクリンさん
picric acid

2,4,6-トリニトロフェノールのこと。 C6H2(NO2)3OH で表わされる。2,4-ジニトロフェノールをニトロ化するか,フェノールをスルホン化し,次いでニトロ化,脱スルホン化して得られる。黄色葉状晶 (水から再結晶) ,または無色の結晶 (熱リグロインまたは濃塩酸から再結晶) 。融点 122.5℃。ゆっくり熱すると昇華するが,急激に熱したり衝撃を与えたりすると爆発するので,圧縮したものは炸薬として使われる。また分析用試薬として,アンモニア,カリウム,ニッケル,コバルト,銅,カドミウム,金などの確認に,また芳香族炭化水素,フェノール,エーテル,第三アミン類などと結晶性ピクラートを生成するので,それらの確認に利用される。

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