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フェミニズム・アート ふぇみにずむあーとfeminism art

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

フェミニズム・アート
ふぇみにずむあーと
feminism art

美術におけるフェミニズム的潮流。1960年代末に始まり、70~80年代の理論化を経て、現代美術の実践のなかで広く認められる。
 60年代にはオノ・ヨーコのイベント『カット・ピース』(1964)、バリー・エクスポートValie Export(1940― )の『触って味わう映画』(1968)などフェミニズム的ニュアンスの強いボディ・アート作品はすでに発表されていた。そのころニューヨークで、フェミニスト・グループWAR(Women Artists in Revolution)が結成され、カリフォルニア州立大学フレスノ校ではジュディ・シカゴJudy Chicago(1939― )によって、フェミニズム・アート・プログラムが設立され、またソーホー20(ニューヨーク)、ウィメンズ・ビルディング(ロサンゼルス)、ウーマン・スペース(ロンドン)などのギャラリーがつくられた。
 70年代のアートにおけるフェミニズムには、大きく分けて二つの傾向がある。一つは、女性への文化的、身体的迫害に異議申し立てをするものだ。シカゴの『ディナー・パーティー』(1979)は神話の人物から有名な芸術家まで39人の女性を来賓として迎えるための皿を、セラミックや刺繍(ししゅう)など、モダニズムの美学から排除されてきた「装飾的」「民族的」な手法でつくることで、男性中心の美術史の修正を目指した。シュザンヌ・レーシーSuzanne Lacyとレスリー・ラボウィッツLeslie Labowitzによる『嘆きと怒りのなかで』は、黒マントをまとった人々のパフォーマンスを通して、ロサンゼルスの連続レイプ殺人事件に抗議した。もう一つは、ロンドンの映像研究の専門誌『スクリーン』Screenを中心に展開された、記号論やミシェル・フーコーの権力の系譜学や、ジャック・ラカンの精神分析の理論を身につけたフェミニストたちによる、社会制度やメディアの表象システムのなかで形成される女性のイメージの脱構築である。代表的な作品としては、メアリー・ケリーMary Kelly(1941― )のインスタレーション『出産後のドキュメント』(1973~79)がある。
 『スクリーン』誌に発表された論文のなかで、フェミニズム・アートの理論的洗練にもっとも貢献したのは、ローラ・マルベイLaura Mulvey(1941― )の論文「視覚の快楽と物語映画」Visual Pleasure and Narrative Cinema(1975)である。同論文では、つくられた女性の受動的イメージをスクリーンの外から窃視する「視線の快楽」の男性中心性を指摘し、その習慣が、大衆的娯楽を通して一般に植えつけられると同時に、女性の観客が心理的に排除される過程を明らかにした。同様の視点のもっとも効果的な体現は、1978年ころから81年にシンディ・シャーマンが行ったコンストラクテッド・フォトグラフィ(あらかじめ構想された絵コンテに沿って撮影される写真)の連作に見られる。シャーマンは、ハリウッドのスリラー映画に登場する、監視され、狙われ、あるいは保護される存在として描かれた女性の姿を、監督と観客の男性的視点を体現するカメラ・アングルもそのままに写真で「再現」してみせた。
 84年にニューヨークのニュー・ミュージアムで、「表象とセクシュアリティに関する差異」という、ケリーらイギリスのフェミニストと、シャーマンらニューヨークのアプロプリエーショニストを集めたグループ展が開かれた。また80年代末~90年代初頭、フェミニズムはポスト植民地主義、多文化主義(マルチカルチュラリズム)、ゲイ=レズビアン・スタディーズと密接に連動し、刺激的な表現を生み出した。例えば、中国系ベトナム人で、フランスとアメリカで教育を受け、アフリカで映画制作をしたトリン・T・ミンハTrinh T. Minh-Ha(1953― )は音とイメージのモンタージュの手法を駆使し、新しい語りの形態を生んだ。89年の『姓はベト、名はナム』は、疑似ドキュメンタリーとモンタージュ、歴史的、個人的なテキストを組み合わせた複合的な語りにより、ベトナム人女性のステレオタイプを超えた。フェミニズム・アートは装飾性、物語性、大衆文化、ポスト構造主義理論などを取り込むことで、芸術のポスト・モダン化に大きく貢献した。[松井みどり]
『グリゼルダ・ポロック著、萩原弘子訳『視線と差異――フェミニズムで読む美術史』(1998・新水社) ▽Trinh T. Minh-Ha Woman, Native, Other(1989, Indiana University Press, Bloomington) ▽Robert Atkins Artspeak; A Guide to Contemporary Ideas, Movements, and Buzzwords(1990, Abbeville Press, New York) ▽Judith Butler Gender Trouble; Feminism and the Subversion of Identity(1990, Routledge, New York) ▽Craig Owens et al. Beyond Recognition; Representation, Power, and Culture(1992, University of California Press, Berkeley, Los Angeles and Oxford) ▽Laura Mulvey Visual Pleasure and Narrative Cinema(in Feminism and Film, 2000, Oxford University Press, Oxford)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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