美術史や広告やメディアや消費物など、既成の表象体系からイメージを取り出し、新しい文脈に組み入れる行為。「盗用芸術」と翻訳される。
1960年代のポップ・アートやゲルハルト・リヒターやジグマール・ポルケによる広告やプロダクト・デザインのイメージのコピーが先駆的作品である。その後1970年代末から1980年代、ニュー・ペインティングの美術家や写真家たちによってオリジナリティーや真実性といった価値観を相対化する「ポスト・モダン芸術」の代表的手法として確立され、1990年代に日本やヨーロッパに波及した。
方法は、伝統的な絵画から借用したイメージや、現代の大衆文化やメディアから得たイメージを一つの画面に共存させるパスティーシュ(意図をもたないイメージの寄せ集め)的絵画(ジュリアン・シュナーベルJulian Schnabel(1951― )、デビッド・サーレDavid Salle(1952― ))、1930~1940年代のハリウッドのフィルム・ノワールに登場する女性や名画のなかの人物に扮した自分を撮った写真(シンディ・シャーマン)、投稿誌に寄せられた素人のプライベート写真の再撮影(リチャード・プリンス)、モダニズムの巨匠の作品の作り直し(マイク・ビドロMike Bidlo(1953― ))や再撮影(シェリー・レビンSherrie Levine(1947― ))、有名なパフォーマンスの再現(マイク・ケリー、ポール・マッカーシーPaul McCarthy(1945― ))、有名な映画の再撮影(スタン・ダグラスStan Douglas(1960― )、ダグラス・ゴードン、ピエール・ユイグ Pierre Huyghe(1962― ))などがある。
模倣は、故意に粗雑であったり、原作の方法に対するコメントを含むことで原作との差異を強調する。そしてその差異に、芸術家の同時代的美意識や、政治的文化的イデオロギーや美術史への批判が託されている。目的や効果は、ハイ・カルチャーと大衆文化のヒエラルヒーの破壊、様式の歴史性の平坦化、モダニズム芸術の純粋性への批判、大衆の欲望の拾い上げなどさまざまある。また、伝統的な絵画や写真、フィルム、広告などの表象によって拡散される、女性のステレオタイプ的イメージの模倣による批判は、1970年代後半に精神分析や構造主義の影響を受けたフェミニズムの新しい潮流と強く連動して大きな成果をあげ、カルチュラル・スタディーズにおける表象批判にも影響を与えた。
この手法を用いた代表的な作家はほかには、バーバラ・クルーガー、ルイーズ・ローラーLouise Lawler(1947― )、森村泰昌(やすまさ)、ジェフ・ウォール、ジェフ・クーンズJeff Koons(1955― )、フィッシュリ&ワイス、村上隆、森万里子、コマーVitaly Komar(1943― )&メラミッドAlexander Melamid(1945― )など。
[松井みどり]
『Hal FosterSubversive Signs (in Recodings; Art, Spectacle, Cultural Politics, 1985, Bay Press, Seattle)』▽『Robert AtkinsARTSPEAK; A Guide to Contemporary Ideas, Movements, Buzzwords (1990, Abbeville Press, New York)』▽『Craig OwensThe Discourse of Others; Feminists and Postmodernism (in Beyond Recognition; Representation, Power, and Culture, 1992, University of California Press, Berkley/LosAngeles/Oxford)』
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