コンベヤーを使用した流れ作業方式。アメリカのH・フォードが20世紀の初め、自動車生産用にベルトコンベヤーを採用し、大量生産を開始してから、フォードの大量生産方式という意味でフォードシステムという言い方が広まった。1903年フォード自動車会社を設立したフォードは、自動車をぜいたく品ではなく、だれにでも利用できる大衆車として生産する決心をし、機能的、じょうぶ、保守が容易、安価を目ざして改良を重ね、08年に大衆車T型フォードを発表した。フォードは自動車の大量生産をするために、機械加工の自動化、部品や半製品の運搬方法を改善した。斜面を利用して部品を運搬したり、マグネットの組立てにベルトコンベヤーを使用するなど新しい方法を導入し、その有効性を認めてから、自動車の組立ての全行程にベルトコンベヤーを採用した。コンベヤーの使用により生産台数は飛躍的に増大し、14年にはアメリカ国内における自動車生産台数の約半分をフォード一社でまかなうほどになった。労働時間も、当時多くの工場では1日10時間程度であったのを、フォード社では8時間労働制を行った。
ベルトコンベヤーの導入による流れ作業では製品、部品、工具、機械類においても多くの改良が必要であった。まず第一に部品の互換性である。互換式生産方法は、ミシンの発明者エリアス・ホウElias Howe(1819―67)、連発拳銃(けんじゅう)の生産で有名なコルトらによって19世紀のなかば過ぎ、すでに実施されていたが、フォードは流れ作業に適するように機械部品の寸法、形状を改良した。その結果、品質の向上、価格の低減が可能となった。第二は分業である。フォード会社では仕事を細かく分け、一つ一つの仕事は比較的単純なものとした。したがって、長年の経験や熟練はたいして必要としなかった。コンベヤーに乗って移動する部品に、決まった作業を短時間で終えるためには複雑な仕事はできないので、1人の行う仕事は単純なものにする必要があった。
コンベヤー・システムは作業員の怠業を一掃し、工場全体をシステム化し生産性の向上に役だった。そのため、このような方法は機械工場のみならず各方面で採用されることとなった。一方、働く人の人間性を無視した方法であるという非難の声も出てきた。しかし、生産性を考えると、今日でもこの方法に勝るものは実現していない。
[中山秀太郎]
H.フォードが創始したフォード・モーター社(1903創設)において実施した経営管理方式。フォードは,それまで金持ちのためのぜいたく品であった自動車を大衆のための実用車として設計・製造・販売した。これが,モデルT(T型フォード)である。〈安価でかつ量産できるためにはどうすればよいか〉,それを実現するために彼はまず組立作業から生産方式の改善を手がけていった。彼がすべての作業に採用した二大原則がある。その一つは,〈もし避けることができるならば,1歩以上歩んではならない〉。他の一つは,〈決して体をかがめる必要はない〉というものである。そしてとくに組立作業における原則は,(1)機器ならびに作業者を工程順に配列して,組立作業間それぞれの構成部品が最短可能距離を移動すること,(2)ワーク・スライド(加工対象物を滑り送りする装置)とかその他の搬送装置を用いることによって,作業者がその作業を完成させたとき,作業者がいつも同じ場所,しかもその場所は作業者の手にとって最も都合のよい場所になるようにし,さらにもし可能ならば重力を利用して加工部品を次の作業者の作業位置に運ぶべきであること,(3)スライド組立ラインを用いて,組み立てられようとしている部品が都合のよい位置にあるよう配送されることとされた。
1913年4月ごろ,フォードは最初の組立ライン(工程系列)を実験に移した。その際の組立対象品は,はずみ車のマグネット発電機であった。これは,最初の〈移動(生産)ライン〉であった。このアイデアは,シカゴの精肉出荷業者が牛肉の精製に用いていた天井トロリーコンベヤから得られた。
→流れ作業
執筆者:新宮 哲郎
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…しかし,自動車産業が近代的な産業として大きく成長したのはアメリカにおいてであった。その理由としては,(1)当時の新大陸アメリカでは資本,国民所得,市場,石油資源など経済的条件がヨーロッパにおけるよりも成長に適していたこと,(2)農業機械工業,自転車工業,兵器工業などにおいて互換性部品による量産方式が発達しており,量産工業としての自動車産業が発達する技術基盤があったこと,(3)H.フォードが流れ作業による大量生産方式(フォード・システム)の導入に成功したこと,などがあげられる。1896年フォードは最初のガソリン自動車の試作に成功し,1903年にフォード・モーター社(略称フォード)を設立した。…
…08年には有名なフォードT型(T型フォード)を,H.フォードが長年抱いていた大量生産による大衆車を実現した自動車として発売した。しかし〈フォード・システム〉と呼ばれる,コンベヤを利用した大量生産管理システムは13年より本格実験に入り,14年からシャシーの組立てに採用された。この結果フォードT型は1908年から27年にかけて1500万7033台が生産された。…
… 20世紀の産業社会を特徴づける大量生産体制は,その効率性により〈豊かな社会〉実現の原動力となったが,他方では労働の単調化・無意味化,生産組織における権威主義と抑圧性を強める傾向をもち,いわゆる労働疎外を生み出すとの批判をも招いた。こうした批判は,大量生産体制の二つの支柱,すなわち,テーラー主義の管理思想(〈科学的管理法〉の項参照)やフォード・システム(流れ作業)に対する思想的批判として古くからあったが,これを大衆化したのはC.チャップリンの名画《モダン・タイムス》である。その後,産業心理学や産業社会学がこの問題についての分析を深めていく過程で,労働問題の視角からだけでなく,経営効率の観点からみても,職務の細分化や仕事における思考(管理)と遂行(労働)の分離の行きすぎが生産性の向上をむしろ阻害しているとの批判を加え,これに代わる職務編成と生産組織のあり方を探りはじめた。…
※「フォードシステム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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