改訂新版 世界大百科事典 「フクロオオカミ」の意味・わかりやすい解説
フクロオオカミ (袋狼)
thylacine
Tasmanian wolf
Thylacinus cynocephalus
近年絶滅したものと考えられるタスマニア産の肉食性の有袋目フクロオオカミ科の哺乳類。別名タスマニアオオカミ。そのイヌ類に似た姿は生物進化における収れん現象のもっとも際だった例とされる。長い犬歯を備えた口吻(こうふん)部,指行性の四肢など,体のつくりは全体にイヌに酷似し,わずかに基部の太い尾に外観上有袋類の特色を見ることができる。後方にひらく育児囊には四つの乳頭がある。体毛は短く,黄褐色の地に13~19本の黒茶色の横縞がある。体長100~130cm,尾長50~65cm,肩高60cm前後。
タスマニアには1800年代の終わりころまでは比較的多く奨励金をかけて駆除が行われていたが,1900年代に入って急激に減少し,33年に最後の個体が捕獲されている。化石の証拠からオーストラリアとニューギニアにも,少なくとも1万年くらい前までは生息したものと推定される。単独生活をし,カンガルー,ワラビー,トカゲ類などを捕食した。人がヒツジを持ち込んでからは,しばしばこれを襲うことがあり,駆除される原因となった。交尾期には雌雄がつがいをつくってともに生活し,1産2~4子,子は約3ヵ月間育児囊で育てられたといわれる。
→有袋類
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報