翻訳|marsupial
発生の途中に未熟な状態で生まれた子が雌親の乳頭に吸いついて発生を続ける哺乳類の1群で,ふつう育児囊があるためこの名がある。獣亜綱後獣下綱有袋目Marsupialiaに属し,二子宮類ともいう。オーストラリア,タスマニア,ニューギニア(少数はソロモン諸島,ビスマーク諸島,モルッカ諸島),南アメリカ(1種は北アメリカまで)に分布し,現生のものは16科(8科とすることもある)約271種がある。
形態は真獣類(一子宮類)に似て,頸椎(けいつい)に肋骨がなく,遊離した鎖骨をもち,肩甲骨には棘突起(きよくとつき)がある。心臓の右の房室間に三尖弁(さんせんべん)があり,陰茎は尿を通し,乳腺に乳頭がある。しかし,腰帯(ようたい)に上恥骨すなわち袋骨があり,大脳に脳梁(のうりよう)がなく,網膜細胞に有色の脂肪小球があり,コアラやウォンバットでは卵に角質の膜があるなどの点は真獣類と違い,単孔類に等しい。骨口蓋の後部が不完全で大きな口蓋窓が開き,先が二つに分かれた陰茎が陰囊の後ろにあって肛門と共通のくぼみに開き,左右2本に分かれた腟(ちつ)が別々に尿生殖洞に開き,後者が肛門と共通の浅い総排出腔に開くこと,体温調節機構が不完全などの点も真獣類より原始的である。尾は基部が太く胴との境が不明りょうで,横縞が左右相称なのは爬虫類的である。
毛にふつう上毛と下毛の別がない。切歯(門歯)が上に5対,下に4対(真獣類では上下とも3対),前臼歯(ぜんきゆうし)が上下とも3対(真獣類では4対),臼歯が上下とも4対(真獣類では3対)あるのが基本型で,第3前臼歯だけが生え代わること,育児囊があること,胎盤がないか,あっても発達が悪いことも真獣類と違っている。胎盤がある場合は卵黄囊胎盤で,バンディクート類だけ真獣類と同じ尿膜胎盤を生ずる。胎盤がない場合,胎児は子宮の分泌液を卵黄包で吸収して発育する。
妊娠期間はきわめて短く,オポッサムでは8日,他のものでも10~12日がふつうで,子は後肢が原基に過ぎず,前肢と口だけ異様に発達した状態で生まれ,つめの生えた前肢で匍匐前進して母親の乳頭に吸いつく。乳頭がのびて子の食道に達し,子の口裂が癒着するため,子は乳頭から離れられなくなる。子は自力で乳を吸わず,母親が腹筋を収縮して子の食道に注ぐ乳で発育する。乳頭の数はコアラ,ウォンバット,フクロモグラ,フクロギツネなどでは2個,フクロアリクイ,フクロオオカミ,カンガルーなどでは4個であるが,オポッサム類では最後位のものが対をなさないため奇数で,キタオポッサムでは5~13個,ジネズミオポッサムの中には27個に達するものがある。
育児囊はジネズミオポッサム,イタチオポッサム,ケノレステスなどにはなく,ウーリーオポッサムでは下腹部の両側に2条の皮膚のひだ,フクロネコ,フクロアリクイなどでは浅い円盤状の裸出したくぼみがあるに過ぎない。しかしウォンバットではくぼみに覆いができ,口が下に開いた育児囊になる。コアラ,フクロモグラ,フクロオオカミには口が後ろに開いた,カンガルー,ワラビー,フクロギツネ,クスクスなどでは口が前に開いた深い育児囊がある。
有袋類はオポッサム科のエオデルピスなどが上部白亜紀に北アメリカに現れ,続いてヨーロッパにも数属が現れたが後に絶滅し,南アメリカとオーストラリアで進化した。南アメリカでは中新世にハイエナに似たボルヒエナ,鮮新世に剣歯虎に似たチラコスミルスなどのボルヒエナ上科の猛獣も現れ,オーストラリアでは更新世に,ライオン大のチラコレオ,サイ大のディプロトドン(ともにクスクス上科)などが現れたが,中新世以前の化石は知られていない。
現生のものは,足の第2,3指が結合して毛をすく櫛(くし)に変化したクスクス上科(下の切歯は1対。クスクス科,ブーラミス科,フクロモモンガ科,フクロミツスイ科,コアラ科,ウォンバット科,カンガルー科)とバンディクート上科(下の切歯は3対。バンディクート科,ミミナガバンディクート科),足の指が結合していないオポッサム上科(下の切歯は4対,盲腸がある。オポッサム科,チロエオポッサム科),ケノレステス上科(下の切歯は3対,盲腸がある。ケノレステス科)およびフクロネコ上科(下の切歯は3対,盲腸がない。フクロネコ科,フクロアリクイ科,フクロオオカミ科,フクロモグラ科)がある。
執筆者:今泉 吉典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱有袋目に属する動物の総称。この目Marsupialiaの仲間は、獣亜綱後獣下綱の代表者で、機能的な胎盤ができないため胎児は目や耳が完成しないうちに生まれ、母親の下腹部にある育児嚢(のう)に入って乳頭に吸い付き、乳を飲んで発生を続ける。腟(ちつ)と子宮が2個あるため二子宮類ともいう。真獣亜綱(有袋類、単孔類以外の現生哺乳類全部を含む)のものと違って大脳半球を結ぶ神経路の脳梁(のうりょう)がなく、前臼歯(きゅうし)が3対、臼歯が4対あり、第1・第2前臼歯には永久歯がない(真獣類では前臼歯が4対、臼歯が3対)。また骨盤に上恥骨(袋骨)を備え、網膜に有色の脂肪小球があるのは原獣亜綱の単孔類に等しい。
中生代白亜紀に北アメリカに現れたが、新生代初めに南アメリカに移住したものが栄え、北アメリカやヨーロッパに残ったものは第三紀中新世に絶滅した。南アメリカからは一部のものが南極大陸(近年化石が発見された)を通ってオーストラリアへ移住し、両大陸で適応放散した。南アメリカでは鮮新世に剣歯虎(けんしとら)そっくりのチラコスミルス、オーストラリアでは更新世(洪積世)にサイ大のディプロトドン、ライオン大のチラコレオなどが現れている。現生のものはほとんどが中央・南アメリカおよびオーストラリア地方に分布し、18科約270種。下の門歯が3~4対ある多門歯亜目と、それが1対しかない双門歯亜目に大別される。多門歯亜目には南アメリカにオポッサム科、トガリネズミに似たミクロビオテリウム科(コロコロ)とケノレステス科、オーストラリア地方にフクロネコ科(フクロネコ、タスマニアデビル)、フクロオオカミ科、フクロアリクイ科、フクロモグラ科、バンディクート科、ミミナガバンディクート科があり、オーストラリア地方固有の双門歯亜目にはクスクス科(フクロギツネ、セレベスまで分布するクスクス、コアラ)、ブーラミス科、リングテイル科、フクロモモンガ科、カンガルー科、ネズミカンガルー科、ウォンバット科、フクロミツスイ科がある。
[今泉吉典]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…オーストラリアを象徴するカンガルーやコアラは分類学的には有袋類と称されるグループに含められるが,有袋類とは育児囊をもつ動物という意味である。われわれヒトをも含めた真獣類(有胎盤類)では,受精卵はある程度発生を進めた胚盤胞の段階で母親の子宮に着床する。…
…1科1属1種の食虫植物フクロユキノシタはオーストラリア南西端の湿地だけに野生する珍しい植物である。
[動物]
オーストラリアを代表する動物の筆頭は,世界唯一の,卵を生む哺乳類の単孔類(カモノハシとハリモグラ)および育児囊をもつ有袋類である。すでに述べたように,この大陸は早くに隔離されたために,有袋類は新興の真獣類(有胎盤類)との激しい競争を経験することなく生き長らえられたものの子孫である。…
… オーストラリア,タスマニア,ニューギニアに分布し,砂漠に生息する種から森林の樹上にすむ種(キノボリカンガルー類)まで約55種がある。最小の種は,体長24~34cmのニオイネズミカンガルー,最大の種は,有袋類中最大で体長160cmを超えるアカカンガルー,オオカンガルーである。 いずれの種も,発達した後肢でジャンプしながら移動し,木や草の葉などの植物質を主食とする。…
…オーストラリア固有の樹上生有袋類。ユーカリ類の一部の木の葉しか食べない特異な食性をもつことで知られている。…
※「有袋類」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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