フッ素樹脂(読み)ふっそじゅし(英語表記)fluorocarbon fiber

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フッ素樹脂」の意味・わかりやすい解説

フッ素樹脂
ふっそじゅし
fluorocarbon fiber

フッ化炭化水素の重合物の総称であり、熱可塑性樹脂に属する。「テフロン」Teflonという商品名でアメリカのデュポン社から市販されているものが多い。その需要の90%がポリテトラフルオロエチレンであり、そのほかにポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化エチレン‐プロピレン共重合体ポリフッ化ビニリデンなどがある。

[垣内 弘]

製造法

代表的な単量体テトラフルオロエチレン(TFE)はのようにして合成される。中間体のジフルオロクロロメタンは商品名をフレオン22(Fleon-22)といい、冷媒として多量に使用されている。

 TFEの重合はいろいろあるが銀内張りしたオートクレーブ中で酸素を触媒とした高圧重合法や、過酸化ベンゾイルを触媒にした懸濁重合法がある。

 CF2=CF2→-CF2-CF2-CF2-CF2- (PTFE)
 PTFEはポリエチレンの水素が完全にフッ素に置換したもので、しかも対称的な構造をもっている。炭素と水素の結合よりもこの炭素とフッ素の化学結合の結合解離エネルギーが大きいので、耐熱性、耐化学薬品性、耐候性が優れている。また、表面張力も小さいので電気的特性(とくに誘電特性)が抜群である。耐熱性、耐薬品性のあまりにも優れているために成形加工が困難となるし、また室温付近での機械的性質があまりよくないので、それらの点を改良するために変性したものが先に述べたPTFE以外のフッ素樹脂で、たとえばPCTFEは256~282℃の融点をもつので溶融加工が可能となる。さらに溶融加工ができ、しかも熱安定性と高温度における機械的性質の優れたテフロンPFAが開発された。融点は302~310℃でPTFEのそれに近い。PCTFEはケルF(Kel-F)とよばれ、零下80℃から200℃の温度範囲で使用可能である。PTFEは零下100℃から250℃までの可使温度範囲をもっている。

 フッ素樹脂の用途は、一般のプラスチックでは使用できない高温とか低温用または化学薬品を使用する部分など、またテープとして電気絶縁テープは高温―低温サイクルの激しいモーター用などに用いられる。やや高価なことが欠点である。

[垣内 弘]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「フッ素樹脂」の意味・わかりやすい解説

フッ(弗)素樹脂 (ふっそじゅし)
fluorine-contained resin
fluorocarbon resin

ポリエチレンの水素の一部または全部をフッ素でおきかえた樹脂の総称。フッ素原子は不活性であるため,フッ素樹脂は耐薬品性,撥水性,耐候性,耐熱性にとくにすぐれ,また摩擦係数が小さいため,すべりやすく,粘着しない特性がある。したがって,家庭用品ではフライパンや電気アイロンに塗布され,こげつき防止などに用いられたり,化学プラントの配管,釜のライニングパッキングなどに用いられる。電気特性にもすぐれているので,電気絶縁テープ,電線コーティングにも用いられている。フッ素樹脂フィルムをラミネートした鋼板は,耐候性,耐薬品性にすぐれ,メンテナンスフリーの恒久建造物に用いられる。

 工業的によくつくられているのは,ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化樹脂)およびポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ化樹脂)である(テフロンTeflonは前者に対するデュポン社の商品名)。第2次大戦中,原子爆弾製造に必要なウラン235の濃縮工程で使用されるフッ素やフッ化水素酸に耐えうる材料として開発され,戦後工業化された。

四フッ化樹脂は,260℃近くまで安定であるが,成形が難しく,粉末樹脂の加圧成形法で成形品とするか,焼結成形法でコーティングされる。三フッ化樹脂は,耐熱性は180℃くらいであるが,成形性がよく,射出成形,押出成形が可能である。テトラフルオロエチレンモノマーは,

の反応により,またクロロトリフルオロエチレンモノマーは,

の反応によってつくられる。樹脂は,これらのモノマーをオートクレーブ中で,酸素または過酸化ベンゾイルを触媒として加圧・加熱下に重合させて得る。四フッ化樹脂,三フッ化樹脂のおもな物性は表のとおりである。他のフッ素樹脂としては,ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA),四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP),エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリフッ化ビニル(PVF)などがある。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「フッ素樹脂」の意味・わかりやすい解説

フッ(弗)素樹脂【ふっそじゅし】

ポリエチレンの水素の一部または全部をフッ素でおきかえた樹脂の総称。代表的なものとして,クロロトリフルオロエチレンCF2=CFClまたはテトラフルオロエチレンCF2=CF2を重合させて得られる樹脂がある。耐薬品性がすぐれ,特に耐フッ酸性は全材料中比類がない。耐熱性は後者で−250〜260℃,前者で−200〜200℃ときわめてすぐれ,誘電率,摩擦係数もきわめて低く,放射線に対しても著しく安定。フッ化物処理容器,ガスケットパッキング,電気絶縁材料,フライパンのライニングなどに利用。ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化樹脂。テフロンはこの樹脂のデュポン社の商品名)の成形加工の困難さを改良したのが四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体のテフロンFEPで,射出成形や押し出し成形が可能となり,医用材料として人工血管や人工心臓などにも利用。また,スルホン酸基をもつフッ素樹脂は耐食性のすぐれたイオン交換膜として,フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体は耐薬品性の強い合成ゴムとして用いられる。
→関連項目熱可塑性樹脂有機塩素化合物

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

化学辞典 第2版 「フッ素樹脂」の解説

フッ素樹脂
フッソジュシ
fluororesin

フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂の総称.現在,市販されているおもなものは,ポリ(テトラフルオロエチレン)ポリ(クロロトリフルオロエチレン)ポリ(フッ化ビニル)ポリ(フッ化ビニリデン),テトラフルオロエテン-ヘキサフルオロプロペン共重合体である.いずれも強固な炭素-フッ素結合(解離エネルギー448 kJ mol-1)およびフッ素により強化された炭素-炭素結合をもつため,共通してきわめてすぐれた熱的,機械的,電気的,化学的特性を有している.融点はきわめて高く,ポリ(テトラフルオロエチレン)が327 ℃,ほかの樹脂も200 ℃ 前後である.用途は主としてこれらの特性を利用した,腐食性薬品,有機溶剤用のシール,パッキング,ポンプなどの部品,軸受,耐熱電線被覆,一般電気機器の絶縁材料などである.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フッ素樹脂」の意味・わかりやすい解説

フッ素樹脂
フッそじゅし
fluoro-resin

フッ素を含む熱可塑性樹脂をさす。代表的なものとして,ポリテトラフルオロエチレン,ポリクロロトリフルオロエチレン,および,それらとパーフルオロアルキルビニルエーテル,ヘキサフルオロプロピレン,エチレンなどとの共重合体,ポリビニリデンフルオライド,ポリビニルフルオライドがあげられる。高融点,耐久性,撥水性,不燃性,耐溶剤性などが共通の特性である。それらの特性は,樹脂を構成する高分子鎖の構造,特に,樹脂中のフッ素含有率に依存し,一般に,フッ素含有率が減少するほど,耐熱性や耐腐食性は低下するが,加工性は向上する。フッ素樹脂は,パッキング,チューブ,シート,電線被覆,電子機器部品,ライニングなどに用いられる。 (→テフロン )  

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「フッ素樹脂」の解説

フッ素樹脂

 フッ素を含んだ,アルケン類を重合させて作る熱可塑性樹脂.テフロン(商標名)などがある.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

世界の電気自動車市場

米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...

世界の電気自動車市場の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android