翻訳|ion exchange
イオン交換体と呼ばれる物質と電解質溶液が接触することにより,その物質中に結合していたイオンが溶液中のイオンと交換する現象をいう。水中の特定イオンの分離として着目され,純水の製造,廃液中からの有価イオンの回収,濃縮,糖液精製,アミノ酸,抗生物質等の精製,核燃料サイクルにおける分離等に利用されており,化学工学の一つの単位操作となっている。イオン交換は電気的に同種の,かつ等量のイオンの間で生じる現象であり,正電荷をもつイオンすなわち陽イオンを交換する場合を陽イオン交換,逆の場合を陰イオン交換という。イオン交換体は電解質溶液に不溶性の物質で,無機質または有機質の固体である場合と液体の物質の場合とがある。
無機イオン交換体としては,天然ゼオライト(緑砂,沸石など),合成ゼオライト等のほか,土壌,酸性白土などがあり,陽イオン交換に有効である。有機質のイオン交換体としては石炭をスルホン化したようなものもあるが,代表的なものはイオン交換樹脂であり,有機物重合体の網目構造を骨格基質としてここに酸やアルカリに相当する交換基を多数導入し,その交換基の反応特性により溶液中のイオンを交換する。また,水に難溶性の高分子液状イオン交換体を適当な有機溶媒に溶かし,この有機溶液と水を接触させることにより水中の特定イオンを溶媒中のイオン交換体に抽出する操作(イオン交換抽出)もある。たとえば,有機リン化合物であるジ(2-エチルヘキシル)リン酸(略号D2EHPA)をチロシン溶解したものを用い,水相から陽イオンの抽出が行われる。またアルキルアミンは陰イオンの抽出に有効である。
通常のイオン交換樹脂におけるイオンの選択性は強酸性陽イオン交換樹脂の場合,(1)イオンの価数が大であるほど選択的に強く吸着され(Al3⁺>Ca2⁺>Na⁺),(2)同じ価数のイオンの間ではだいたい原子番号の大きいほど選択的に強く吸着されるがこの差は原子価の差ほどはっきりしたものではなく,とくに樹脂により,また濃度が高くなると順序が入れかわることもある(Cs⁺>Rb⁺>Na⁺>Li⁺,Ba2⁺>Sr2⁺>Ca2⁺>Mg2⁺)。一般に陽イオンの選択性の強さの順序は,Cr3⁺>Ba2⁺>Pb2⁺>Sr2⁺>Ca2⁺>Ni2⁺>Cd2⁺>Cu2⁺>Co2⁺>Zn2⁺>Cs⁺>Rb⁺>K⁺>NH4⁺>Na⁺>Li⁺とされ,H⁺イオンは強酸性樹脂ではNa⁺とLi⁺の間,弱酸性樹脂ではずっと上位に位置する。一方,陰イオン交換樹脂では,クエン酸⁻>I⁻>HSO4⁻>ClO3⁻>NO3⁻>Br⁻>CN⁻>HSO3⁻>Cl⁻>HCO3⁻>ギ酸⁻>酢酸⁻>F⁻で,OH⁻イオンは強塩基性樹脂では酢酸とF⁻の間,弱塩基性樹脂ではずっと上位に位置する。これらの選択性を利用して特定イオンの吸着,およびいったん吸着したイオンの脱離による樹脂の再生を行う。
イオン交換体に捕捉交換されるイオンの量と水溶液中のイオン濃度との間の関係を決めるのがイオン交換平衡であるが,例として,陽イオン交換体において液中のイオンA⁺が交換体中の固定イオンR⁻と結合しているB⁺イオンと交換する場合を考える。すなわち反応
A⁺+BR⇄B⁺+AR
における選択係数KBAとして,
を定義すると,R⁻がB⁺に比してA⁺を選択的に捕捉する場合はKBAが大きい値となる。イオン交換は等量のイオンの間で起こるので,液中の全イオン濃度CT=[A⁺]+[B⁺]および交換体中の容量QT=[AR]+[BR]はイオン交換の前後で一定である。したがってA成分の液中のモル分率xA(=[A⁺]/CT),交換体中のモル分率yA(=[AR]/QT)の間に,
なる関係が1価-1価のイオン交換において成立する。イオン種A,C間の選択係数はAとBおよびBとC間の選択係数が既知であればより算出することができる。
(1)硬水の軟化 硬水はその中に含まれるカルシウムイオンCa2⁺やマグネシウムイオンMg2⁺をナトリウムイオンNa⁺と置換することにより軟化されるので,Na⁺を含む陽イオン交換体を用いて軟水を得る。交換能力を失したカラムは食塩水を流して再生する。
(2)純水の製造 陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の両者を併せ用いて,水中の電解質成分を除き,純水を得る。強酸性イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂を1塔の中に混合してつめ,この中に水を通すことにより,陽イオンをH⁺イオンに,陰イオンをOH⁻イオンに置換して純水を得る混床式と,まずH⁺型の陽イオン交換樹脂の塔に原水を流し陽イオンをH⁺イオンに交換し,酸性となった流出水から脱気により炭酸ガスを除き,ついでOH⁻型陰イオン交換樹脂塔を通して陰イオンを除去する複床式がある。ボイラー用水のようにシリカ分の含有量を可能な限り低下させた水や超純水を必要とするときは,多段としたり,前処理・後処理に別のプロセスを併用したりすることがある。陽イオン交換樹脂,陰イオン交換樹脂の再生にはそれぞれ酸,アルカリを用いるが,混床式の場合は樹脂を比重の差で分離してそれぞれ再生し,その後再び混合して用いることとなる。
(3)排水処理 クロムめっきやニッケルめっき等の排水中に含有される重金属イオン等の有害イオンや高価なイオンの回収再利用に,イオン交換は有効に利用されている。ほかに原子力プロセスから出る放射性排水についても,とくに低イオン濃度の場合の処理に,イオン交換は有効である。
執筆者:鈴木 基之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある物質の中に含まれているイオンが、その物質と接触している溶液にそのイオンを放出し、かわって溶液中から別のイオンを取り込む現象。交換反応は平衡反応であり、イオン交換を行う物質の本体(イオン交換体)をRとすると、
R-M++M+R-M++M+
あるいは
R+X-+X-R+X-+X-
のような平衡(イオン交換平衡)が成立するといわれている。
[岩本振武]
イオン交換体は一般に多孔性物質であり、天然に存在するものも合成によってつくられるものもある。土壌を構成する成分には、無機性および有機性のイオン交換体があり、植物への栄養補給に重要な役割を果たしている。粘土鉱物や沸石(ふっせき)にはイオン交換機能があり、合成ゼオライトは工業的に利用されている。無機イオン交換体は耐熱性や耐放射線性に優れているが、交換容量に乏しく、合成樹脂にイオン交換機能をもたせたイオン交換樹脂が多用されている。石炭を硫酸処理したものは天然の有機性イオン交換体となるが、あまり用いられてはいない。
[岩本振武]
分析用、医用、工業用などの純水を製造するために、陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を組み合わせたイオン交換装置が利用される。硬水を軟化する程度のものから、きわめて純度の高い水を得るものまでが実用化され、逆に溶存イオンを回収する目的に使われることもある。イオン交換樹脂は粒状に加工されるのが普通であるが、膜状あるいは液状にして利用されることもある。
[岩本振武]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
解離基を含む不溶性の物質(イオン交換体)の解離基と可動性の対イオンとの可逆的な結合-解離によって対イオンを交換する現象.イオン交換体が正の電荷を有する場合,対イオンの電荷は負である.このようなイオン交換体は陰イオンを交換し,陰イオン交換体とよばれる.同様に,イオン交換体が負の電荷を有する場合は,陽イオンを交換する能力があり,したがって陽イオン交換体とよばれる.吸着の面からみればイオン交換現象は界面動電電位がきわめて大きい典型的な異極性吸着によるイオン交換である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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