改訂新版 世界大百科事典 「ブダイ」の意味・わかりやすい解説
ブダイ (武鯛)
スズキ目ブダイ科Scaridaeの海産魚の総称,またはそのうちの1種を指す。ブダイ科の魚は両あごの歯が癒合し,イシダイなどと同様,くちばしを形成しているのが特徴である。このくちばしの形から英語ではブダイ類をparrot fish(オウムウオ)という。本科はブダイ亜科とアオブダイ亜科とに分けられるが,両者は歯の癒合の程度が多少異なる。ブダイ亜科では歯が縁のほうで多少切れているが,アオブダイ亜科では癒合が完全で一つ一つの歯を区別することはまったくできない。ブダイ科はベラ科と近縁で,ベラ類と同様のどにがんじょうな歯(咽頭歯(いんとうし))をもっている。くちばしとこの咽頭歯で固いものをかみ砕いて食べることができる。世界の熱帯,亜熱帯のサンゴ礁や岩礁域にすむ。ベラ類と同様,体色,斑紋が性,成長段階で異なるものが多く,それぞれが別々に名をつけられることが多かったので,以前は350種もあるとされていたが,現在は世界中で約70種ほどに整理された。日本近海には本州中部以南沖縄まで黒潮に洗われる磯に約30種ほどが分布するが,本州で見られるのはブダイ,アオブダイなど数種にすぎない。
ブダイ亜科の代表はブダイCalotomus japonicusだが,中部以南に分布し,南日本に多い。この名は関東近辺の呼名で,関西では,歯をむき出した口の形が意地悪い印象を与えるせいか,イガミ,エガミなどと呼ばれる。また九州では海藻を好んで食べる習性からモハミ,モハンと呼ぶ。これらの名はアオブダイとも共通する。ブダイは褐色の地色で,背は青みを帯び,腹部は淡緑色をしている。雄が青みが強く,雌は赤みが強い。釣人のいうアオブダイ,アカブダイは本種の雄と雌のことを指すことが多い。岩礁にすみ,フジツボ,カニ類,ウニ類,海藻などを食べる。産卵期は夏。肉に独特の磯くささがある。冬はハンバノリを好み,これで釣るのをハンバブダイという。大根葉,コマツナ,ホウレンソウ,またエビやカニでも釣れる。全長60cmに達する。冬美味で,刺身のほかちりなべにもする。
アオブダイYpsiscarus ovifronsは本州中部から吐噶喇列島まで分布する。名のとおり青い体で特別の斑紋はない。歯も濃青色。全長90cmとブダイより大きくなり,成魚はおでこがはり出す。産卵期は4月から10月と長い。イシサンゴをかみ砕いて食べる。美味で沖縄では重要な食用魚である。ときに肝臓に強い毒をもち,これを食べるとフグ毒と同じ症状で死亡する例がある。
執筆者:清水 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報