ヘイケガニ(その他表記)Heikea japonica(=Neodorippe japonica

改訂新版 世界大百科事典 「ヘイケガニ」の意味・わかりやすい解説

ヘイケガニ
Heikea japonica(=Neodorippe japonica

十脚目ヘイケガニ科の甲殻類。甲面の彫刻が深く,一見怒ったような,またくやしそうな人の顔に見えるので,壇ノ浦源氏との戦いに敗れた平家亡霊がのり移ったものだという伝説があり,名もこれによる。つり上がった〈目〉の部分は鰓域(さいいき)の前部で,〈鼻〉の部分は心域,〈口〉の部分は腸域と甲の後縁である。甲長,甲幅とも2cmほどで,甲面に毛はなく,一様に暗紫褐色。2対の歩脚は著しく長く,各節は扁平。第3,4脚はごく短くて背中側にかたより,先端にははさみがある。浅海の砂泥底で,二枚貝の一片をこのはさみで背負って身を隠している。引潮にのって沖に移動するときは腹面を上にして巧みに泳ぐ。瀬戸内海有明海に多産するほか,韓国,中国の内湾の浅海にも分布している。デトリタスを食べる。夏に産卵する。

 北海道沿岸から中国まで分布するサメハダヘイケガニParadorippe granulataは,鮫肌の名のように甲,はさみ脚,歩脚とも細かい顆粒(かりゆう)で密に覆われている。甲は比較的幅広く,平べったい。甲面に多数のいぼ状突起があるキメンガニDorippe frasconeは東京湾以南の西太平洋,インド洋に広く分布し,水深30~100mに多い。突起のために〈人相〉が悪く鬼面の名がついたが,甲,はさみ脚,歩脚の長節に粗い毛がはえている。同科の他の種より大きく,甲幅3.5cmに達する。貝殻を背負う習性は他種と同様である。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘイケガニ」の意味・わかりやすい解説

ヘイケガニ
Heikea japonica

軟甲綱十脚目ヘイケガニ科。甲は暗紫色で,幅 2cm内外。甲面の凹凸が怒った人の顔のようにみえ,また瀬戸内海に多産するため,壇ノ浦の合戦で源氏に敗れた平家の亡霊が乗り移ったという伝説が生まれた。前 2対の歩脚は長く,各節とも扁平である。後 2対の歩脚は短く,背側にかたより,先端がかぎ爪となっていて二枚貝の半片を背負う。駿河湾,瀬戸内海,有明海大韓民国(韓国),中国沿岸の水深 30~100mにすむ。近縁種に,いぼ状顆粒が多いキメンガニ Dorippe sinica,全体が細かい顆粒で密に覆われたサメハダヘイケガニ Paradorippe granulata などがある。(→甲殻類十脚類節足動物軟甲類

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘイケガニ」の意味・わかりやすい解説

ヘイケガニ
へいけがに / 平家蟹
[学] Neodorippe japonica

節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目ヘイケガニ科に属するカニ。瀬戸内海、有明(ありあけ)海、朝鮮半島西岸、中国北部に分布する。水深30~100メートルの貝殻混じりの砂底にすむ。甲長、甲幅とも2センチメートルほどで、前方が狭い。甲域が怒った人の顔のようにみえ、そのうえ、瀬戸内海に多産するため、壇ノ浦(だんのうら)で源氏との戦いに敗れた平家の亡霊がのりうつったという伝説がある。つり上がった目のようにみえる部分は前鰓域(さいいき)、大きな鼻は心域、一文字に結んだ口は甲の後縁である。前2対の歩脚は著しく長く、正常の形であるが、後2対の脚(あし)は背中側に偏り、先端が鉤(かぎ)づめ状となって前節とともにはさみを形成する。これで二枚貝の殻を背負って身を隠す。近縁のサメハダヘイケガニParadorippe granulataは北海道から中国まで分布し、細かい顆粒(かりゅう)で密に覆われている。また、キメンガニDorippe frasconeはインド洋まで広く分布し、甲面にいぼ状突起が多数ある。

[武田正倫]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「ヘイケガニ」の意味・わかりやすい解説

ヘイケガニ

甲殻類ヘイケガニ科のカニ。平家一門の亡霊が化したという伝説で有名。甲の人面状の刻印は内部にある内臓の位置や筋肉の付着点などでできた模様である。甲面に毛はなく,一様に暗紫褐色。2対の歩脚は著しく長く,各節は扁平。第3・4歩脚は短小で先端にはさみがあり,これで二枚貝の一片を背負う習性がある。甲長は2cmぐらい。瀬戸内海,有明海,韓国・中国の内湾の浅海に分布する。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のヘイケガニの言及

【カニ(蟹)】より


[分類]
 世界で約5000種,そのうち日本からは1000種あまりが記録されている。分類学的にはアサヒガニ群(アサヒガニ類),カイカムリ群(カイカムリ類),ホモラ群(ミズヒキガニ,ホモラ類),尖口群(カラッパコブシガニヘイケガニ類),尖頭群(クモガニヒシガニ類),ヒゲガニ群(イチョウガニ,ヒゲガニ類),方頭群(オウギガニ,ワタリガニ,イワガニスナガニ類),サンゴヤドリガニ群(サンゴヤドリガニ類)に分けられる。多くの種は一般に甲幅1~5cmであるが,歩脚が長いクモガニ型と短いオウギガニ型がある。…

※「ヘイケガニ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android