化学辞典 第2版 「ヘキサシアノ鉄酸塩」の解説
ヘキサシアノ鉄酸塩
ヘキサシアノテツサンエン
hexacyanoferrate
FeⅡ,FeⅢ,FeⅡ,Ⅲの3種類がある.【Ⅰ】ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸塩:MⅠ4[Fe(CN)6].フェロシアン化物(ferrocyanideまたはferrocyanate),黄血塩(yellow prussiate)ともいう.代表的なものはK塩,ついでNa塩である([別用語参照]ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウム).ほかの金属塩は,K(Na)塩と各金属塩との複分解で生成する.正八面体型の [FeⅡ(CN)6]4- を含む.Fe-C約1.90 Å.
酸;H4[Fe(CN)6].K塩に塩酸を加え,エーテルを加えてエーテル付加物(エーテル2分子が付加)をつくり,そのエーテルを除去すると得られる.強い四塩基酸.無色.水,エタノールに可溶.空気に触れなければ100 ℃ まで安定で,それ以上では分解する.
アルカリ金属塩;一般に黄色の水和物をつくり安定である.淡黄色の無水物も得られる.固体は安定でCN- を遊離しにくいので,毒性がない.反磁性.加熱,日光などで分解が起こる.水に可溶.水溶液は長く保存すると徐々に加水分解する.水溶液は,FeⅡでプルッシアンブルー(沈殿)を,CuⅡで褐色沈殿を,AgⅠや ZnⅡで白色沈殿を生じる.ハロゲン,KMnO4,H2O2などで酸化するとMⅠ3[Fe(CN)6]になる.アルカリ土類金属塩も水に可溶であるが,重金属塩の多くは水に不溶.Na塩は,K塩とともに,写真用,カラーフィルム用,顔料(印刷インキなど)製造用,赤血塩製造原料,染色,革なめし,そのほかに利用される.[CAS 13943-58-3:K4[Fe(CN)6]][CAS 13601-19-9:Na4[Fe(CN)6]]【Ⅱ】ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸塩:MⅠ3[Fe(CN)6].フェリシアン化物(ferricyanideまたはferricyanate),赤血塩(red prussiate)ともいう.代表的なものはK塩である([別用語参照]ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム).正八面体型の [FeⅡ(CN)6]4- を含む.Fe-C約1.94 Å.C-N約1.15 Å.
酸;H3[Fe(CN)6]も固体で得られている.三方晶系.隣接錯イオンとHを介してN…H…N水素結合でつながる.水に可溶で,強い三塩基酸.
アルカリ金属塩;一般に無水物は赤~暗赤色,水和物は赤~赤橙色で,黄血塩より不安定で有毒.常磁性.水に可溶.水溶液は黄色で,煮沸すると分解する.エタノールに不溶.酸化剤である.FeⅢでターンブルブルー(濃青色沈殿)を生じる.濃硫酸で,HCNを発生する.アルカリ土類金属の塩は水に可溶,重金属塩の多くは水に不溶.おもにK塩が用いられる.青写真,写真用,電解めっき用,木綿などのプリント染色,鋼の焼戻し,弱い酸化剤,分析試薬などに用いられる.[CAS 13746-66-2:K3[Fe(CN)6]]【Ⅲ】ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)鉄(Ⅲ)酸塩(hexacyanoferate(Ⅱ) ferate(Ⅲ)):FeⅡ3FeⅢ4(CN)18・nH2O( = FeⅢ[FeⅡFeⅢ(CN)6]3・nH2O).フェロシアン化鉄(Ⅲ)(ferric ferocyanide(Ⅲ))ともいう.プルッシアンブルー(紺青,ベルリンブルー)およびターンブルブルーがある.KFeⅡ[FeⅢ (CN)6]はターンブルブルー,KFeⅢ[FeⅡ (CN)6]はプルッシアンブルーという.いずれも濃青色沈殿で,両者はX線,そのほかの解析でもまったく同じものである.混合原子価錯体であるため,700 nm 付近に電荷移動吸収帯があり,濃い青色を呈する.ただし,色調は製法により微妙な差がある.たとえば,顔料用の製品は,まず FeⅡと [Fe(CN)6]4- から白色沈殿をつくり,これを空気酸化して色調を調節する.印刷インキ,カーボン紙,タイプリボン,絵の具,皮革,ゴム,プラスチックの着色など,各種の顔料に用いる.また,気体からH2Sを除去するのにも用いられる.なお,
Fe2+ + [Fe(CN)6]4- →
[FeⅡFeⅡ(CN)6]2-(無色)
Fe3+ + [Fe(CN)6]3- →
FeⅢ[FeⅢ (CN)6](Berlin green)
は,いずれも混合原子価ではないため淡色である.[CAS 14038-43-8:FeⅡ3FeⅢ4(CN)18]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報