ヘクシャー‐オリーンの定理(読み)へくしゃーおりーんのていり(英語表記)Theorem of Heckscher-Ohlin

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ヘクシャー‐オリーンの定理
へくしゃーおりーんのていり
Theorem of Heckscher-Ohlin

外国貿易で一国がどのような産業比較優位をもつのかを、一国と他国の間の生産要素の豊富さの程度の違い(生産要素の賦存の違い)という面から解明したのが、ヘクシャーオリーン定理である。スウェーデンの経済学者E・F・ヘクシャーとB・G・オリーンによって明らかにされたのでそうよばれている。

 いま、A国とB国という二つの国で、X財とY財という2種類の財が、両国で等しい技術水準のもとで労働資本によって生産されるという、単純なケースを想定しよう。二国間で生産要素の賦存が異なり、A国は相対的に労働が豊富でB国は資本が豊富であるとすれば、通常はA国では賃金率は低くB国では資本用役の単位当り報酬率(レンタル率)は低くなるであろう。また、生産に投入される生産要素の比率(労働と資本の比率)は2種類の財の間で異なり、X財はY財に比べて労働よりも資本をより多く投入するような財(資本集約的な財)であり、Y財は労働集約的な財であるとしよう。そうすると、資本集約的なX財は、その生産により多く投入される資本用役の単位当りのレンタル率の低いB国において、より安い費用で生産され、他方、労働集約的なY財は、その生産により多く投入される労働の賃金率の低いA国でより安く生産されるであろう。すなわち、労働が豊富な国は労働集約的な産業に比較優位をもち、資本が豊富な国は資本集約的な産業に比較優位をもつという命題が導出される。そのような命題をヘクシャー‐オリーンの定理という。

 ヘクシャー‐オリーンの定理のもう一つの側面は、生産要素価格の均等化である。それぞれの国がそのような比較優位産業に特化し相互貿易が行われるようになると、A国では労働集約的なY財の生産が拡大し、資本集約的なX財の生産は縮小することになる。このことは、資本用役に比べて労働用役に対する需要が増加することを意味し、それに伴ってA国で賃金率が上昇するであろう。B国では逆に、資本集約的なX財の生産が拡大し労働集約的なY財の生産が縮小して、資本のレンタル率が上昇するであろう。こうして貿易は、両国間の賃金率とレンタル率の格差を狭めるような効果をもち、国際間の生産要素の移動にかわって、貿易が生産要素の報酬率(生産要素価格)を均等化する作用をするのである。

 ヘクシャー‐オリーンの理論は、多くの学者によって純粋理論として体系化されたが、レオンチェフ・パラドックスとして知られるW・レオンチェフによるアメリカ貿易パターンの実証的研究の結果をはじめ、実証的な面でいくつかの問題点が指摘されている。

志田 明]

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