ペット栄養学(読み)ぺっとえいようがく

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ペット栄養学
ぺっとえいようがく

愛玩動物(ペット)のための栄養学。ペットが、コンパニオン・アニマル(伴侶動物)として、人と深くかかわっていくなか、ペットの健康の確保、とくに食生活の改善と安全を目ざして提唱された。ペットの品種やライフステージ、それぞれの状況などに適したペットフード(愛玩動物用飼料)の品質向上、適正給与、安全性の基準などの指標となるべく、科学的な根拠をもとに研究される。[本好茂一]

沿革

1985年(昭和60)日本で初めての世界小動物獣医学会が開催され、その機会に大学の教員を対象とした臨床栄養学の講習会が行われた。当時の日本では、家畜を対象とした家畜栄養学があるのみで、ペットのための栄養学についての研究は行われていなかった。獣医学の先進国アメリカでも、1989年になって初めてオハイオ州立大学の獣医学科に臨床栄養学が開講されたのである。当時は、ペットの飼育が、まだ一般の家庭生活に広く根付いていたわけではなく、獣医師にもペット栄養学の必要性が求められてはいなかったといえよう。
 アメリカでは、全米規模の非営利団体(NPO)の研究協議会であるNRC(National Research Council)の農業部会が、家畜の養分要求量について指標となる飼養標準テキストを1916年に刊行しており、イヌについては1960年に初版を刊行、約10年ごとに改定されてきた。ところが、1985年にイヌの、1986年にネコのNRC飼養標準が改定された際、いずれも、タンパク質要求量を決めるのに、精製飼料や個々のアミノ酸の消化率を100%とするなど、実用からかけ離れた条件を前提としたため、NRC基準の評価が下降し使用されなくなるという問題がおこる。ここで、アメリカのペットフードメーカーが加盟するペットフード協会(PFI:Pet Food Institute)が、この問題をアメリカ飼料検査官協会(AAFCO:Association of American Food Control Officials)にもち込む。AAFCOは家畜飼料の品質を統一的かつ公正な管理下におくための半官半民の組織であり、1909年に設置された。AAFCOのペットフード委員会が検討した結果、1990年にイヌの栄養専門家小委員会(CNE:Canine Nutrition Expert)、1991年にはネコの栄養専門家小委員会(FNE:Feline Nutrition Expert)という二つの小委員会が設けられ、それぞれ設置の翌年にはイヌおよびネコの養分基準を発表、さらに、1993年以降、アメリカ国産・輸入品を問わずAAFCO基準以外のものを取り締まりの対象とした。AAFCOは毎年公式刊行物を出版し、ペットフードの養分基準を掲載している。
 日本では、1995年(平成7)に研究者がイギリスのバーミンガムでの学会に参加した際、現地のペットフード企業の研究所を見学、行き届いた施設と充実した事業内容の一端に触れ、日本の遅れを実感。1998年6月、大学、研究者、獣医師、動物病院、関係研究機関、関連企業、各種団体、ペット飼育者、愛好家なども加わり、ペットの健康と栄養管理知識の向上を目ざし、日本ペット栄養学会が設立された。基礎的な研究をはじめ、人材の育成、教育現場へのカリキュラム提供、普及啓発活動などを行う。また、2000年12月には「ペットフードの表示に関する公正競争規約」が改正され、1997年版のAAFCO養分基準がそのまま日本でも養分基準として採用された。[本好茂一]

社会的背景

近年、動物愛護の高まりもあり、イヌ、ネコを中心とするペットの飼育数は増えている。また、獣医学の進歩もあり、ペットも長寿・高齢化しており、たとえば2008年(平成20)日本では、7歳以上のイヌは全体の55.3%、同じくネコは47.4%、10歳以上のイヌは29.3%、同じくネコは31.0%に達した。ペットフードをはじめとするペット関連商品は、経済的に大きな利益を生む分野としても注目されている。
 こうしたなか、ペットフードに関わる健康被害の顕著な事例が発生する。2007年3月アメリカで、プラスチック原料である化学物質のメラミンが混入した中国産植物タンパク質を用いて製造されたペットフードを原因として、ペットのイヌやネコへの深刻な健康被害が数千頭規模で発生したのである。このため、日本でもペットの安全の確保に資するため法規制の必要が議論され、農林水産省と環境省が安全性確保の研究会を発足。動物愛護の観点から、ペットフード安全法(正式名称は「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」平成20年法律第83号)が成立、2009年6月1日から施行された。これ以前には、カビ毒やヒスタミンに汚染されたペットフードが自主回収されたことはあったが、法的規制はなかった。この法律により、飼料の基準や規格の設定、有害な物質を含む飼料の製造・輸入・販売等の禁止、廃棄等の命令、製造業者等の届出、立入検査などが定められた。[本好茂一]
『本好茂一監修『小動物の臨床栄養学』第4版(2001・学窓社) ▽同監訳『小動物の栄養マニュアル』(2006・ファームプレス) ▽本好茂一・大木富雄監修『ペットフード・ペットビジネスの動向』(2007・ジーエムシー出版) ▽『ペットビジネスハンドブック』各年版(産経新聞メディックス) ▽ペットフード安全法研究会編『ペットフード安全法の解説』(2009・大成出版)』

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