日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホールデン」の意味・わかりやすい解説
ホールデン(Frederick Duncan Michael Haldane)
ほーるでん
Frederick Duncan Michael Haldane
(1951― )
アメリカの物理学者。ハルデンとも表記される。イギリスのロンドン生まれ。ケンブリッジ大学卒業後、1978年同大で博士号取得。1977年から1981年にかけてフランスのラウエ・ランジュバン研究所研究員、その後、アメリカの南カリフォルニア大学、ベル研究所研究員を経て、カリフォルニア大学サンディエゴ校教授。1990年からプリンストン大学教授。
1988年に固体中に並んだ一列の原子の磁気的な性質を説明するのに、トポロジー(位相幾何学)理論を応用する考え(ホールデン仮説)を提唱し、トポロジーの概念で微小な磁石の特異な性質、整数量子ホール効果が磁場の存在しない二次元薄膜半導体で起きることなどを提唱した。この基礎的理論の成果から、従来の物質とは異なる新しい状態をもつトポロジカル絶縁体(内部は絶縁体であるが表面は電気を通す物質)、トポロジカル超伝導体(表面と内部で異なる超伝導物性をもつ超伝導体)、トポロジカル金属などの研究へと広がり、新素材や高性能の電子デバイスなどの開発につながる可能性も期待されている。
1993年アメリカ物理学会バックリー賞、2012年ディラック賞を受賞。2016年「物質のトポロジカル相とトポロジカル相転移の理論的発見」によりアメリカの物理学者デビット・サウレス、マイケル・コステリッツとノーベル物理学賞を共同受賞した。
[馬場錬成 2017年3月21日]
ホールデン(John Burdon Sanderson Haldane)
ほーるでん
John Burdon Sanderson Haldane
(1892―1964)
イギリスの生理学者、遺伝学者。とくに1920年代に始まるダーウィニズムをメンデル遺伝学の概念に基づいて再建した一連の研究は、近代的な進化機構論の建設に大きな足跡を残した。生物学以外に、数学、古典学、哲学の分野でも非凡な才能を示したほか、科学と人類の未来、科学と政治などに関する数多くの啓蒙(けいもう)的な記事を発表し、当時のイギリスの知識層に大きな影響を与えた。1957年インドに移住し、初めはコルカタ(カルカッタ)の統計研究所で、のちにはブバネシュワルに新しくつくった遺伝と生物統計の研究所で、研究と指導にあたった。その偉大な学識と強烈な個性は多くの人々に深い感銘を与えた。20世紀におけるもっとも異色な生物学者の一人である。主著に『ダイダロス』(1923)、『動物生物学』(1927、J・S・ハクスリーと共著)、『進化の要因』(1932)などがある。
[髙畑尚之]
『R・W・クラーク著、鎮目恭夫訳『J・B・S・ホールデン』(1972・平凡社)』▽『木村資生編『遺伝学から見た人類の未来』(1974・培風館)』