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サウレス(読み)さうれす(その他表記)David J. Thouless

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サウレス」の意味・わかりやすい解説

サウレス
さうれす
David J. Thouless
(1934―2019)

アメリカの物理学者。イギリス、スコットランドのベアーズデン生まれ。アメリカのコーネル大学で博士号を取得。カリフォルニア大学バークレー校の博士研究員を経て、イギリスのバーミンガム大学で数理物理学の教授を務め、1980年にシアトルのワシントン大学で物理学の教授となった。

 1970年代の初め、アメリカの物理学者マイケル・コステリッツトポロジー位相幾何学)の数学理論を使って超伝導超電導)の理論的な研究に取り組んだ。当時、二次元薄膜では秩序だった相ができないため超伝導も起こらないとされていたが、二人はこれを理論的に覆すことに成功した。さらに低温で生じた超伝導状態が高温では消えて常伝導になる相転移をトポロジー理論で説明することにも成功した。1978年にヘリウム4の超流動薄膜において実験的に観測され、理論の正しさが実証された。この二次元系における相転移は二人の頭文字をとって「KT転移(コステリッツ・サウレス転移)」とよばれるようになった。

 1980年代には、量子ホール効果をトポロジー理論で解明した。量子ホール効果とは、二つの半導体にはさまれた非常に薄い伝導体の層を極低温に冷やして強い磁場をかけたときに生じる現象のことである。磁場を多少変化させてもその伝導体を流れる電流はある決まった値しかとらないが、磁場を強くするにしたがって、流れる電流は2倍、3倍と整数倍となり離散的なとびとびの値をとる。この整数量子ホール効果は1980年にドイツの物理学者クリッツィングによって発見されたが(それにより1985年にノーベル物理学賞を受賞)、さらにサウレスがこの効果をトポロジー理論で解明したことは、次世代の電子工学や超伝導物質、量子コンピュータ開発などにつながると期待されている。

 1990年ウルフ賞物理学部門を受賞、2000年アメリカ物理学会ラルス・オンサガー賞、2016年「物質のトポロジカル相とトポロジカル相転移の理論的発見」により、アメリカの物理学者ダンカン・ホールデン、マイケル・コステリッツとノーベル物理学賞を共同受賞した。

[馬場錬成 2019年5月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サウレス」の意味・わかりやすい解説

サウレス
Thouless, David

[生]1934.9.21. ベアズデン
[没]2019.4.6. ケンブリッジ
イギリス生まれのアメリカ合衆国の物理学者。フルネーム David James Thouless。ケンブリッジ大学で物理学を専攻し,1958年コーネル大学で博士号を取得。ローレンス・バークリー国立研究所,ケンブリッジ大学などを経て,1965~78年バーミンガム大学教授,1979~80年エール大学教授,以降シアトルのワシントン大学に勤め,2003年に同名誉教授。相転移の解明に大きく貢献した。1973年,サウレスとアメリカの物理学者マイケル・コステリッツは,小さな磁石(スピン)を二次元に格子状に並べた系(磁性体の XY模型)において,渦形の配置パターンで特殊な秩序あるができることを示した(KT転移)。幾何学的な相転移の最初の例である。なお,KT転移は,ソビエト連邦のワジム・ベレジンスキーも見つけていたため BKT転移とも呼ばれる。またサウレスはトポロジー(位相幾何学)の考えを本格的に相転移に取り入れ,半導体界面に存在する二次元電子系に磁場をかけると,電気伝導率が定数の整数倍になる量子ホール効果のメカニズムを説明してみせた。2016年,磁石や電気伝導などでマクロな物質が示す特殊な状態である相転移の起こる仕組みを数学の一分野である幾何学で解明してみせたとして,アメリカの物理学者ダンカン・ホールデーン,コステリッツとともにノーベル物理学賞(→ノーベル賞)を受賞した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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