コステリッツ(読み)こすてりっつ(その他表記)John Michael Kosterlitz

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コステリッツ」の意味・わかりやすい解説

コステリッツ
こすてりっつ
John Michael Kosterlitz
(1942― )

アメリカ物理学者。イギリス、スコットランドアバディーン生まれ。ケンブリッジ大学卒業後、1969年オックスフォード大学で博士号取得。1974年バーミンガム大学の博士研究員を経て1982年からアメリカのブラウン大学教授。

 1970年代の初め、コステリッツはアメリカの物理学者デビッド・サウレスとともにトポロジー位相幾何学)の数学理論を使って超伝導超電導)の理論的な研究に取り組んだ。当時、二次元空間ともいえる薄い層では超伝導や超流動は起こりえないとされていたが、二人はこれを覆し、二次元でも低温にすれば超伝導が起こりうることをトポロジー理論で解明した。そして高温になると超伝導を消滅させる相転移メカニズムを示した。1978年にヘリウム4の超流動薄膜において実験的に観測され、理論の正しさが実証された。この相転移は二人の頭文字を取って「KT転移(コステリッツ・サウレス転移)」とよばれるようになった。

 この理論解明によって、表面と内部で異なる超伝導物性があるなど従来の物質とは異なる新しい状態をもつトポロジカル絶縁体トポロジカル超伝導体、トポロジカル金属などの研究へと広がり、量子コンピュータ、新素材や高性能の電子デバイスなどの開発につながる可能性も期待されている。

 2000年アメリカ物理学会ラルス・オンサガー賞を受賞。2016年「物質のトポロジカル相とトポロジカル相転移の理論的発見」により、アメリカの物理学者デビット・サウレス、ダンカンホールデンノーベル物理学賞を共同受賞した。

[馬場錬成 2017年3月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コステリッツ」の意味・わかりやすい解説

コステリッツ
Kosterlitz, Michael

[生]1943.6.22. アバディーン
イギリス生まれのアメリカ合衆国の物理学者。フルネーム John Michael Kosterlitz。ケンブリッジ大学で物理学を専攻し,1969年オックスフォード大学で博士号を取得。バーミンガム大学,トリノの理論物理学研究所,コーネル大学を経て,1982年以降ブラウン大学教授。磁石や電気伝導などでマクロな物質が示す特殊な状態である相転移の起こる仕組みを数学の一分野である幾何学で解明することに大きく貢献した。1973年,コステリッツとアメリカの物理学者デービッド・サウレスは,小さな磁石(スピン)を二次元に格子状に並べた系(磁性体の XY模型)において,渦形の配置パターンで特殊な秩序ある相ができることを示した(KT転移)。幾何学的な相転移の最初の例で,2人はこれを「トポロジカルな(位相的な)相転移」とした。なお,KT転移は,前年にソビエト連邦のワジム・ベレジンスキーも見つけていたため BKT転移とも呼ばれる。2016年,「トポロジカル相転移と物質のトポロジカル相の理論的発見」に貢献したとしてサウレス,アメリカの物理学者ダンカン・ホールデーンとともにノーベル物理学賞(→ノーベル賞)を受賞した。

コステリッツ
Kostelić, Janica

[生]1982.1.5. ユーゴスラビア,ザグレブ
クロアチアアルペンスキー選手。のちにコーチとなる父に勧められ 3歳で初めてスキーをはいた。クロアチアにはトレーニング施設もスキー場もほとんどなかったが,コステリッツは才能を現し,9歳からヨーロッパ各地の大会に出場。一家は節約のため車やテントで寝泊まりしながら移動した。初出場の 1998―99年シーズンのワールドカップ,オーストリアのサンアントン大会で国際的な注目を浴び,複合で初勝利を飾った。翌 1999―2000年シーズンにはワールドカップの回転で 2勝したが,練習中に転倒し右膝の靭帯を損傷。また 2001年3月には左膝を負傷し,3回の手術を強いられる。けがを乗り越え,2002年ソルトレークシティー・オリンピック冬季競技大会ではクロアチア選手として冬季オリンピック初のメダルを獲得し,一大会にアルペンスキーのメダル 4個(回転,大回転,複合で金,スーパー大回転で銀)を獲得した初のスキー選手となった。歴史的な快挙はクロアチアで喝采を浴び,20万人のファンが凱旋帰国を出迎えた。2004年には再び膝のけがに苦しんだが,再起して 2006年トリノ・オリンピック冬季競技大会で金メダル 1個を獲得。2006年のワールドカップでは総合優勝を果たした。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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