量子ホール効果(読み)リョウシホールコウカ(その他表記)quantum Hall effect

デジタル大辞泉 「量子ホール効果」の意味・読み・例文・類語

りょうしホール‐こうか〔リヤウシ‐カウクワ〕【量子ホール効果】

半導体絶縁体界面のような二次元に閉じ込められた電子極低温状態で示す量子論的なふるまいの一。磁界を強くするにしたがい、電流と磁界の両方に垂直な方向に生じる電位差が、離散的なとびとびの値をとる現象を指し、これを整数量子効果という。1980年にドイツの物理学者クリッツィングが発見し、1985年に同業績によりノーベル物理学賞を受賞した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「量子ホール効果」の意味・わかりやすい解説

量子ホール効果
りょうしほーるこうか
quantum Hall effect

半導体と絶縁体の界面や半導体のヘテロ接合面などの二次元(平面)内の電子に対して、極低温時(数K以下)に非常に強力な磁場(数テスラ)をかけると、ホール伝導率σHがσHe2/hという離散的な値をとる現象。1980年にクリッツィングが発見した。ここでνは整数または分数eは素電荷hプランク定数。νが整数の場合の整数量子ホール効果とνが分数の場合の分数量子ホール効果がある。これは、低温強磁場下で電子の軌道状態が量子化され、エネルギー準位が離散的な値に縮退したことによる効果である。この縮退したエネルギー準位は半導体内の不純物などの影響により、少し広がり、電子の局在化を起こし(アンダーソン局在)、その影響で整数量子ホール効果が生じると考えられる。整数量子ホール効果により普遍定数であるe2/hを精密に測定できるため電気抵抗標準として使用されている。また、分数量子ホール効果は、半導体内の不純物を極限まで減らした状態で観測され、電子間のクーロン・ポテンシャルにより発生すると考えられている。

[山本将史 2022年7月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「量子ホール効果」の意味・わかりやすい解説

量子ホール効果
りょうしホールこうか
quantum hall effect

半導体の表面など二次元面内の電子系が面に垂直な磁場 (Bz) を受けた際に示す量子論的効果。 1980年 K.V.クリッツィングらによって発見された。面内に電場 (Ex) をかけると,ローレンツ力によってホール電流 (jy) が流れる。ホール伝導度 σxy=jy/Ex は古典的には電子密度 n に比例するが,0K付近の実験では σxy は階段状に変化し,nch/eBz ( c は光速度,h はプランク定数,e は素電荷) の整数倍の付近で非常によい精度で普遍的に整数 ×e2/h という一定値をとる (整数量子ホール効果) 。このため現在では整数量子効果を示す半導体素子が新しい標準抵抗 ( h/e2=25813Ω ) として使われている。また量子電気力学に現れる微細構造定数 α=μ0ce2/2h~1/137 ( μ0 は真空の透磁率 ) の精密測定にも利用されている。理論的には不純物に起因する電子状態の局在,非局在の問題として説明される。より純度の高い半導体ではnが ch/eBz の 1/3 倍,2/3 倍などの付近で σxy が一定値を示す分数量子ホール効果が D.C.ツイ,H.L.シュテルマー,A.C.ゴッサルらにより観測されている。この場合は電子間のクーロン相互作用が大切な役割を果たすと考えられており,R.ラフリンによる2次元非圧縮性量子液体の理論など多体電子系の研究が進めら,強い電子相関の系の研究が非常に盛んになった。これらの研究で,1985年にクリッツィング,1998年にツイ,シュテルマー,ラフリンらがノーベル物理学賞を受賞した。

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知恵蔵 「量子ホール効果」の解説

量子ホール効果

2次元内に閉じ込められた電子ガスに垂直磁界を加えると、電流と直角方向の電気伝導度(ホール伝導度)が、電子の電荷の2乗とプランク定数の比の整数倍の値を示す現象。シリコンMOSトランジスタの反転層中の電子や、ガリウム・ヒ素/アルミニウム・ガリウム・ヒ素ヘテロ接合の界面の2次元電子ガスで、極低温状態で観測された。量子化された抵抗値は、極めて高い精度で、普遍定数で表されるので、抵抗標準に採用された。

(荒川泰彦 東京大学教授 / 桜井貴康 東京大学教授 / 2007年)

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