量子ホール効果(読み)りょうしほーるこうか(英語表記)quantum Hall effect

日本大百科全書(ニッポニカ) 「量子ホール効果」の意味・わかりやすい解説

量子ホール効果
りょうしほーるこうか
quantum Hall effect

半導体絶縁体界面や半導体のヘテロ接合面などの二次元(平面)内の電子に対して、極低温時(数K以下)に非常に強力な磁場(数テスラ)をかけると、ホール伝導率σHがσHe2/hという離散的な値をとる現象。1980年にクリッツィングが発見した。ここでνは整数または分数eは素電荷、hプランク定数。νが整数の場合の整数量子ホール効果とνが分数の場合の分数量子ホール効果がある。これは、低温強磁場下で電子の軌道状態が量子化され、エネルギー準位が離散的な値に縮退したことによる効果である。この縮退したエネルギー準位は半導体内の不純物などの影響により、少し広がり、電子の局在化を起こし(アンダーソン局在)、その影響で整数量子ホール効果が生じると考えられる。整数量子ホール効果により普遍定数であるe2/hを精密に測定できるため電気抵抗標準として使用されている。また、分数量子ホール効果は、半導体内の不純物を極限まで減らした状態で観測され、電子間のクーロン・ポテンシャルにより発生すると考えられている。

[山本将史 2022年7月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「量子ホール効果」の意味・わかりやすい解説

量子ホール効果
りょうしホールこうか
quantum hall effect

半導体の表面など二次元面内の電子系が面に垂直な磁場 (Bz) を受けた際に示す量子論的効果。 1980年 K.V.クリッツィングらによって発見された。面内に電場 (Ex) をかけると,ローレンツ力によってホール電流 (jy) が流れる。ホール伝導度 σxy=jy/Ex は古典的には電子密度 n に比例するが,0K付近の実験では σxy は階段状に変化し,nch/eBz ( c は光速度,h はプランク定数,e は素電荷) の整数倍の付近で非常によい精度で普遍的に整数 ×e2/h という一定値をとる (整数量子ホール効果) 。このため現在では整数量子効果を示す半導体素子が新しい標準抵抗 ( h/e2=25813Ω ) として使われている。また量子電気力学に現れる微細構造定数 α=μ0ce2/2h~1/137 ( μ0真空透磁率 ) の精密測定にも利用されている。理論的には不純物に起因する電子状態の局在,非局在の問題として説明される。より純度の高い半導体ではnが ch/eBz の 1/3 倍,2/3 倍などの付近で σxy が一定値を示す分数量子ホール効果が D.C.ツイ,H.L.シュテルマー,A.C.ゴッサルらにより観測されている。この場合は電子間のクーロン相互作用が大切な役割を果たすと考えられており,R.ラフリンによる2次元非圧縮性量子液体の理論など多体電子系の研究が進めら,強い電子相関の系の研究が非常に盛んになった。これらの研究で,1985年にクリッツィング,1998年にツイ,シュテルマー,ラフリンらがノーベル物理学賞を受賞した。

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