ボナパルティズム
ぼなぱるてぃずむ
Bonapartism
ボナパルティズムということばの本来の意味は、フランス語でナポレオン・ボナパルト(ナポレオン1世)およびナポレオン3世に対する支持を意味したが、さらにナポレオン3世の政治体制と政策全体をさすようになった。フランスで帝国主義ということばとボナパルティズムということばは似たような意味であったが、しだいに帝国主義ということばのほうは外政面について用いられるようになり、ボナパルティズムのほうは内政面ないし政治体制について用いられるようになった。
政治体制としてのボナパルティズムについて、初めて規定したのはカール・マルクスの『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』や『フランスの内乱』などの著作である。マルクスは、国民を支配する能力をブルジョアジーが失い、しかも労働者階級がまだ支配能力を獲得しない時期において可能な唯一の政府形態である、と指摘した。ナポレオン3世の支配は巨大な官僚・軍隊組織に支えられ、この点では絶対王政による統治権力の集中に類似している。ナポレオン3世が代表する階級はフランスにおいてもっとも数の多い分割地農民であった。このマルクスの指摘に続いてフリードリヒ・エンゲルスは『家族、私有財産および国家の起原』のなかで、支配階級の道具としての国家のなかで「例外国家」があり、それは絶対王政とボナパルティズムであると指摘した。すなわち、ボナパルティズムはブルジョアジーに対してはプロレタリアートの役割を演じ、プロレタリアートに対してはブルジョアジーの役割を演じていると述べた。ビスマルクのドイツ帝国もボナパルティズムの新版である、とも述べている。このエンゲルスの指摘によってボナパルティズムは広く国家形態の一つとして定式化された。ファシズムについてもボナパルティズムとの共通性が認められる。
[斉藤 孝]
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「ボナパルティズム」の意味・わかりやすい解説
ボナパルティズム
ナポレオン1世,ナポレオン3世の帝政にみられるような特殊な政治方式,国家形態。元来はボナパルト家の政治方式の意。転じて,一般に,国内のブルジョアジーとプロレタリアートの階級対立が均衡状態を生み出し,特定階級による一方的支配が行われにくくなったとき,調停者のような形で専制的政治権力が樹立されるものをいう。
→関連項目外見的立憲制
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ボナパルティズム
Bonapartism[英],bonapartisme[フランス]
政治学的概念としては,ナポレオン1世の支配体制をモデルとする軍事独裁体制をさし,マルクス主義の概念としては,ナポレオン3世の国家構造をモデルとする近代ブルジョワ国家の一形態をさす。この国家構造では,ブルジョワジーとプロレタリアートの勢力が拮抗しているため前者が自力で階級支配ができず,代行者として,農民など中間層に基盤を持つ権威主義的な権力が登場する,とされている。その意味ではブルジョワ国家の最終段階とされるのだが,実際はブルジョワジーの上昇期に出現し,人民投票や普通選挙など民主主義要因を含む独裁制という特異な近代の権力形態の一つである。
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世界大百科事典 第2版
「ボナパルティズム」の意味・わかりやすい解説
ボナパルティズム【Bonapartism】
日本においてボナパルティズムはマルクス,エンゲルスの指摘にもとづきながら,ほぼ次のように理解されてきた。すなわち,近代社会のブルジョアジーとプロレタリアートの対立において,力の均衡状態が生じ,両者のいずれもが国家権力を掌握するにいたらぬという状態が発生したとき,一時的に両者に対して一定の自立性をもった国家権力が成立する。それはフランスで第一帝政と第二帝政として現れ,そこに成立したナポレオンの独裁権力の性格をボナパルティズムという。
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ボナパルティズム
Bonapartism
ボナパルト家の政策の意味で,特にナポレオン3世の統治と権力構造
ブルジョワジーとプロレタリアートの両階級が対抗しながら,一方がまだ強力な政治勢力になりえないという過渡期に,両階級の保護者のようにふるまって独裁権力を保った。本質的には小土地所有農民の保守性に依存し,金融資本などの大ブルジョワジーの支持を得て,プロレタリアートを抑圧した。
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