ボルヘス(読み)ぼるへす(英語表記)Jorge Luis Borges

デジタル大辞泉 「ボルヘス」の意味・読み・例文・類語

ボルヘス(Jorge Luis Borges)

[1899~1986]アルゼンチンの詩人・小説家。該博な知識に基づいた幻想的作風で知られる。詩集「ブエノスアイレスの熱狂」、短編集「伝奇集」「エル=アレフ(不死の人)」など。

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精選版 日本国語大辞典 「ボルヘス」の意味・読み・例文・類語

ボルヘス

  1. ( Jorge Luis Borges ホルヘ=ルイス━ ) アルゼンチンの詩人、短編小説家、エッセイスト。ヨーロッパ文学への該博な知識と幻想的な感受性に満ちた作品で知られる。作品に「ブエノス‐アイレスの熱狂」「エル‐アレフ(不死の人)」「伝奇集」など。(一八九九‐一九八六

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改訂新版 世界大百科事典 「ボルヘス」の意味・わかりやすい解説

ボルヘス
Jorge Luis Borges
生没年:1899-1986

アルゼンチンの小説家,詩人,評論家。イギリス系の血の混じる,教養の高い裕福な家庭の子としてブエノス・アイレスに生まれた。第1次大戦の始まった年から1920年代の初めにかけて,スイスあるいはスペインに滞在し,表現主義やウルトライスモ(超絶主義)などの当時の前衛的思潮に深く影響された。故国に帰ってから,《プロア》《マルティン・フィエロ》《スル》といった雑誌を中心に積極的な活動を開始し,《ブエノス・アイレスの熱狂》(1923),《正面の月》(1925),《サン・マルティンの手帖》(1929)など,古き良き首都への郷愁と形而上学的な不安とがないまぜになった詩集を発表した。30年代に入ってからは散文に転じ,一人の民衆詩人の評伝《エバリスト・カリエゴ》(1930)に始まって,《論議》(1932),《永遠の歴史》(1936),《続審問》(1952)といったエッセー集を上梓した。それらの中で開陳されている,この宇宙を支配する円環的時間,その空間的投影として秩序と混沌を同時に象徴する迷宮的世界像,個々の生によって永遠に反復される祖型的運命,文学的伝統の中でのみ存在しうる作者の非独創性のような根本的な思想は,《汚辱の世界史》(1935),《伝奇集》(1944),《アレフ》(1949),《ブロディの報告書》(1970),《砂の本》(1975)などの幻想性豊かな短編集の中にもうかがうことができる。また,《創造者》(1960),《陰影礼賛》(1969),《群虎黄金》(1972),《鉄の貨幣》(1972),《夜の歴史》(1977),《暗号》(1981)といった後期の詩集において,飽くことなく歌われている。40年代と70年代におけるペロン政権下の執拗な圧迫にもかかわらず,現実との間に距離をおくその態度は,とくに若い作家たちの非難の的となった。しかし一方で,生のうちに潜む永遠なるものを巧緻な措辞と構造の下に表現しようとする文学的姿勢は高く評価されている。1979年にセルバンテス賞を授けられた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボルヘス」の意味・わかりやすい解説

ボルヘス
ぼるへす
Jorge Luis Borges
(1899―1986)

アルゼンチンの詩人、作家。ブエノスアイレスの裕福な家庭に生まれ、幼いころから父親の薫陶を受けてイギリスの文学書に親しむ。1914年、家族とともにヨーロッパに移住して勉学に励む一方、当時の前衛的芸術運動の洗礼を受ける。21年に帰国のあと、ブエノスアイレスの風物詩集『ブエノスアイレスの熱狂』(1923)、『サン・マルティンの手帖(てちょう)』(1929)などにより詩人として認められる。その後、散文に精力を注いだが、該博な知識と大胆な想像力とがみごとに融合し、作品には幻想的短編集『伝奇集』(1944)、『エル・アレフ(不死の人)』(1949)、また博引旁証(ぼうしょう)の評論集『論議』(1932)、『永遠の歴史』(1936)、『続審問』(1952)などがある。「世界史とはいくつかの隠喩(いんゆ)の歴史である」という作者のことばからもうかがえるように、有限のなかに無限と反復の観念を持ち込み、独自の文学的宇宙を築き上げる。その後も詩文集『創造者』(1960)、詩集『他者と自身』(1967)、『幽冥礼讃(ゆうめいらいさん)』(1969)、『群虎黄金』(1972)、短編集『ブロディーの報告書』(1970)、『砂の本』(1975)、あるいは『ボルヘス講演集』(1979)、評論集『七夜』(1980)などの著作を発表している。

[木村榮一]

『中村健二訳『悪党列伝』(1976・晶文社)』『中村健二訳『異端審問』(1982・晶文社)』『柳瀬尚紀訳『幻獣辞典』(1974・晶文社)』『渋澤龍彦他著『ボルヘスを読む』(1980・国書刊行会)』『篠田一士訳『ラテンアメリカの文学1 伝奇集』(1983・集英社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ボルヘス」の意味・わかりやすい解説

ボルヘス
Borges, Jorge Luis

[生]1899.8.24. ブエノスアイレス
[没]1986.6.14. ジュネーブ
アルゼンチンの詩人,短編作家,批評家。ヨーロッパで教育を受け,1921年に帰国。『プリズマ』 Prisma誌,『プロア』 Proa誌,『マルティン・フィエロ』 Martín Fierro誌の創刊に協力して,ヨーロッパの前衛的な芸術運動の紹介に努め,いわゆる「22年の世代」を代表する存在となり,詩集『ブエノスアイレスの熱狂』 Fervor de Buenos Aires (1923) ,『サン・マルティン日誌』 Cuaderno San Martín (29) のほか,物語集『汚辱の世界史』 Historia universal de la infamia (35) を経て,『フィクション』 Ficciones (44) ,『アレフ』 El Aleph (49) にいたる作品群によって,ラテンアメリカ文学を代表する一人となった。多年図書館に勤務,ペロン政権下で一時不遇であったが,55年以後国立図書館長。 61年第1回フォルメントール賞受賞。作品はほかに詩文集『創造者』 El hacedor (60) ,『陰翳礼賛』 Elogio de la sombra (69) ,『虎たちの金色』 El oro de los tigres (72) ,『深遠のばら』 La rosa profunda (75) ,『鉄の貨幣』 La moneda de hierro (76) ,短編集『ブロディーの報告』 El informe de Brodie (70) ,『砂の本』 El libro de arena (75) など。 79,84年に来日。

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百科事典マイペディア 「ボルヘス」の意味・わかりやすい解説

ボルヘス

アルゼンチンの作家。1940年代以降の,いわゆる新しいラテン・アメリカ文学の先駆者にして代表的存在であるのみならず,20世紀世界文学の巨匠。しばしば〈迷宮の作家〉と称されるが,それは世界文学の伝統の継承を唱える彼が,書物を通しての時空超越の旅によって蓄積した驚嘆すべき学殖を駆使して造営する文学的〈迷宮〉ゆえである。この〈迷宮〉は代表作たる短編集の《伝奇集》や《不死の人》にも頻出するが,実はこれは,彼の形而上学の骨格をなす円環的時間(永劫回帰)の具体化,つまり作品化に他ならない。詩,短編,評論といったジャンルを等しく重視したボルヘスには詩集《ブエノスアイレスの熱狂》や,《論議》をはじめとする一連の批評があるが,いずれも刺激的な作品で,もはや古典となりつつある。
→関連項目コルタサルレイエス

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ボルヘス」の解説

ボルヘス
Jorge Luis Borges

1899~1986

20世紀の小説におそらく最大の影響を与え,またラテンアメリカ文学の「ブーム」の前提をつくった作家。ブエノスアイレスのコスモポリタンな知的環境のなかに育ち,1914年以後ヨーロッパに渡って,当時の前衛的な文学の影響を受けた。帰国して前衛的な作家たちと交わり,いくつかの詩集,エッセイ集を刊行した。小説の分野では,前人未到の手法により『恥辱の世界史』(1935年)『伝奇集』(44年)『エル・アレフ』(49年)などに含まれる短編を書いた。

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世界大百科事典(旧版)内のボルヘスの言及

【ラテン・アメリカ文学】より

…だが1916年にダリオの死後,モデルニスモは文体や言語の刷新が飽和点に達し,貴族趣味に走るとともに,第1次世界大戦後ヨーロッパから到来した前衛詩に押されて,衰退の一途をたどることになった。 20年代以降は,詩の分野ではルイス・ボルヘス,パブロ・ネルーダ,セサル・バリェホ,ニコラス・ギリェンらによって代表される前衛詩,社会詩が主流になり,多くのすぐれた作品が生まれた。また散文の分野でも,1910年のメキシコ革命の影響を受けて,ラテン・アメリカの土着性を再認識する動きがみられ,〈メキシコ革命文学〉〈大地小説〉〈ガウチョ文学〉(ガウチョ),〈インディヘニスモ文学〉(インディヘニスモ),〈アフロ・アメリカ文学〉などの,写実主義的な土着文学が相次いで誕生した。…

※「ボルヘス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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