翻訳|microphone
音響信号を受けてそれを電気信号に変換する装置。略してマイクmikeともいう。電話用の送話器もマイクロホンの一種である。1876年にベルが電話を発明した際に、電話送話器として用いたのが最初である。
[吉川昭吉郎]
一般に、音波によって振動板を振動させ、振動板と一体になっているか、振動板に取り付けられた電気音響変換素子で、音波に比例する電気出力を発生させる。電気音響変換の原理から、電磁エネルギーの変化を利用するもの(広義の電磁型)、静電エネルギーの変化を利用するもの(広義の静電型)、電気抵抗の変化を利用するもの(抵抗型)の3種に大別される。
[吉川昭吉郎]
広義の電磁型に属するものには、ダイナミックマイクロホン、リボンマイクロホン、マグネチックマイクロホンなどがある。
ダイナミックマイクロホンは、振動板に取り付けられた円筒状のコイルが磁界の中に置かれたもので、構造的にはダイナミックスピーカーと同一である。音波によって振動板が振動すると、コイルが磁界中を動いて発電が行われる。広い周波数範囲、広いダイナミックレンジにわたってひずみのない動作が行われ、業務用から民生用まで広く使われる。動電マイクロホン、ムービング・コイル・マイクロホンともよばれる。
リボンマイクロホンは、高力アルミニウムやチタンなどでつくられた厚さ数マイクロメートルから数十マイクロメートルの薄いリボンを磁界の中に置いて、音波をこのリボンで直接受け、その振動によってリボン自身に発電が行われる仕組みのものである。リボンが振動体と発電素子を兼ねているのが特徴で、特性はよいが、薄くて軽いリボンを使うため、息や風の影響を受けやすい。主として放送などの業務用に使われる。
マグネチックマイクロホンは、振動板を強磁性体材料でつくり、狭い間隙(かんげき)を介して磁性体の対極に永久磁石および固定コイルを置き、振動板が振動して間隙が増減したとき、固定コイルに発電が行われる仕組みを利用するものである。小型、軽量、高感度、かつ安価にできる特徴をもつ。特性のよいものをつくることがむずかしいため、一般用途に使われることは少なくなってきている。
[吉川昭吉郎]
広義の静電型に属するものには、コンデンサーマイクロホン、エレクトレットマイクロホン、圧電マイクロホンなどがある。
コンデンサーマイクロホンとエレクトレットマイクロホンは、振動板とこれに平行な面をもつ対電極とを薄い間隙を介して対向させる構造をもつ。振動板が振動して間隙が増減すると、振動板と対電極間の静電容量が変化し、あらかじめここに加えられていた電界の強さが変化して、電気出力が取り出される仕組みである。コンデンサーマイクロホンとエレクトレットマイクロホンの違いは、前者が振動板と背電極との間に外部の直流電源から直流電圧を供給して、間隙に一定の電界をかける構造であるのに対し、後者は永久電界が安定に保存される性質をもつエレクトレット材料(永久磁石の電界版と考えればよい)で振動板または対電極のいずれかをつくることにより、直流電源を省略したものである。コンデンサーマイクロホンおよびエレクトレットマイクロホンでは、振動板の厚さは機械的強度が許される限り薄くすることができ、数マイクロメートルから数十マイクロメートルの薄膜状で使われる。構造が簡単で、安定した特性と高い信頼性をもつものをつくりやすい。感度がよく、広い周波数範囲にわたって良好な特性を得ることができ、小型化も容易なため、業務用から民生用まで用途が広い。とくに精密につくられたコンデンサーマイクロホンは、音響計測の標準器として使われ、日本では、産業技術総合研究所が標準器としての管理を行っている。
圧電マイクロホンは、ロッシェル塩などの圧電結晶や、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの圧電磁器でつくられた薄板に力が加えられたとき、圧電気とよばれる起電力が発生することを利用する。小型、軽量にできる特長がある。圧電結晶を用いたものをクリスタルマイクロホン、圧電磁器を用いたものをセラミックマイクロホンとよぶことがある。
[吉川昭吉郎]
抵抗型マイクロホンの実例に炭素マイクロホン(カーボンマイクロホン)がある。炭素の微粉を容器に詰め、その容器の壁の一部(蓋(ふた))が振動板を兼ねる構造をもつ。炭素粉にあらかじめ一定の直流電流を流しておくと、振動板が振動することにより炭素粉の接触状態が変化して抵抗値が変わり、その結果、直流電流が音の状態に応じて変化することを利用する。
抵抗型では、入力の音は直流電流の形で供給されている電気エネルギーの状態を制御する働きをするだけで、入力される音のエネルギーが出力の電気エネルギーに変換されるわけではない。このため、音響入力よりもはるかに大きな電気出力を取り出すことができ、一種の増幅作用がある。この特別な性質のため、増幅器の性能が低く、高価であったラジオ放送の初期には放送用として重要な役割を果たした。しかし、動作が不安定、雑音が大きい、ひずみが多いなどの欠点があるため、電磁型や静電型などのマイクロホンが実用化されると、放送や録音などの高忠実度が要求される目的には使われなくなった。その後は電話用送話器として長い間使われ、通信業務に大きな役割を果たした。電話機回路が電子化されるに伴い電話用からも撤退し、いまはこの形式のマイクロホンを見ることはほとんどない。
[吉川昭吉郎]
マイクロホンの感度が音の入射する方向によって異なる度合いを、マイクロホンの指向性という。あらゆる方向からの音に対して一様な感度をもつ場合を全指向性または無指向性という。一方向だけに高い感度をもつ場合を単一指向性、ある方向とその反対方向に高い感度をもつ場合を双指向性などという。どのような指向性がよいかは、使用目的によって異なる。どの方向からの音も収音するためには全指向性が望ましく、逆に周囲の不要な音を除いて特定方向の音を収音するためには単一指向性が望ましいということになる。
ダイナミックマイクロホンやコンデンサーマイクロホンは、基本的に音が振動板の前面だけに作用するもので、動作上は圧力マイクロホンまたはプレッシャーマイクロホンとよばれるグループに属する。音の圧力には方向性がないので、このようなマイクロホンは基本的に全指向性である。ただし、音の周波数が高くなるにしたがい、正面の感度が大きくなって、単一指向性に近くなる。
リボンマイクロホンは、基本的に音がリボンの両面に作用するようになっている。リボンの振動は両面にかかる圧力の差に比例するが、これは音を伝える媒質粒子の速度に比例することに相当し、動作上は速度マイクロホンまたはベロシティマイクロホンとよばれるグループに属する。媒質粒子の速度には方向性があり、正面と背面からの入射音波に対してリボンはもっともよく振動し、側面からの入射音波に対してリボンは振動しないので、リボンマイクロホンは双指向性をもつことになる。以上述べたことは基本構造であって、ダイナミックマイクロホンやコンデンサーマイクロホンであっても、振動板の前面だけでなく、背面からも音が加わる構造にすれば双指向性になるし、リボンマイクロホンでも背面をふさげば全指向性の特性をもつようになる。また、全指向性マイクロホンと双指向性マイクロホンを組み合わせることにより、単一指向性マイクロホンが得られる。
[吉川昭吉郎]
これまで述べた基本構造をもとに、使用目的に応じて種々の名称をつけたマイクロホンがつくられている。
(1)ラペルマイクロホン 小型マイクロホンで、上着の襟のボタンホールなどに取り付けて使用する。
(2)接話マイクロホン 唇の直前の音を収音し、野外などで周囲の雑音の影響をできるだけ受けないようにしたものである。帽子に取り付けたり、ヘッドホンと組み合わせたりして使用する例が多い。
(3)超指向性マイクロホン 複数のマイクロホン素子を組み合わせ、その電気出力を電気的に処理したり、パラボラ型の音響反射器などを併用したりして、指向性をとくに鋭くしたものである。
(4)ワイヤレスマイクロホン マイクロホンに小型無線送信機を組み合わせて、マイクロホン出力を電波にのせて送信し、煩わしい電線を省いたものである。
[吉川昭吉郎]
音波によって生ずる振動板などの機械的な振動を電気信号に変換する装置。JISでは,〈音響系から電気系へ変換する電気音響変換器〉と定義している。
声を出したり,楽器を演奏したり,その他何らかの方法によって音を出すと,その音は,空気の粗密波となって伝搬する。その中に,振動しやすいように周囲を支持した軽くて薄い振動板を置くと,その振動板の表と裏には,そのときの気圧に相当する力(静圧)と,音波によって生ずる力との和の力が作用する。このようにして作用する力が振動板の表と裏で等しければ振動板は静止したままであるが,音波が空気中を伝わるときは表と裏に加わる力は等しくはならず,振動板は,この力の差に対応して動くことになる。
次に,この振動板の動きに対応した電気信号を得るには,たとえば,図1に示すように磁場の中におかれた導体(コイルなど)に振動板の動きを伝えればよい。導体の両端からは,フレミングの右手の法則に従って,振動板の動きに対応した電気信号が得られる。
マイクロホンは,振動板の動きを電気信号に変換するときの方法の違い(変換器の違い)および音波によって生ずる力を振動板に作用させる方法の違いなどによって分類される。代表的なダイナミックマイクロホンの構造を図2に示す。音波によって振動板が動き,それによって磁場の中のコイルが動いて電流が発生する。
(1)ダイナミック(動電型)マイクロホン 動作原理などは前述のとおりである。マイクロホンの中ではもっともよく用いられるものの一つである。導体をリボン状に加工して振動板をも兼ねさせたものは,リボンマイクロホンあるいはベロシティ(速度型)マイクロホンという。動電型変換器には可逆性があり,電気エネルギーを加えると音響エネルギーを発生させることができる。
(2)静電型マイクロホン コンデンサーマイクロホンともいう。導電性の振動板を可動電極とし,固定電極と組み合わせてコンデンサーを形成し,二つの電極の間に直流電圧をかけて電荷を蓄える。振動板が音波によって力を受けて動くと,その動きに対応した電気信号が得られる(図3)。小型化も比較的容易であり,ダイナミックマイクロホンと同様にもっともよく用いられるマイクロホンの一つである。静電型変換器にも可逆性がある。なお,直流電圧を必要としないエレクトレット型には超小型(直径6~7mm)のものもあり,ミニカセットに組み込まれたり,補聴器などに用いられている。
(3)マグネチックマイクロホン ダイナミックマイクロホンではコイルが振動板とともに動くが,マグネチックマイクロホンでは,振動板によってアーマチュアと呼ばれる可変磁気抵抗体が動かされる。その際,磁気抵抗の変化に応じて磁束密度も変化し,その変化に対応した起電力がコイルに生ずる。小型化も容易で,補聴器などに使用されている。
(4)圧電型マイクロホン クリスタルマイクロホンともいう。結晶に圧力を加えると圧力に応じて結晶が変形し,その変形の程度に対応した電圧が発生することを利用したもの。
このほかに,音波による力を振動板を介して炭素粉に加え,炭素粉の接触抵抗の変化を電気信号として取り出すカーボンマイクロホンなどがある。また,比較的新しいものには,レーザー光を振動板に照射し,反射した光と照射した光の干渉の程度を測定することによって振動板の動きに対応した電気信号を得る光マイクロホン(あるいはレーザーマイクロホン)が試作されている。この方法は,振動板には音波による力以外に電気的,機械的な力がほとんど加わらない点が大きな特徴で,高感度化,広帯域化など,より以上の特性改善の可能性をもつものである。
(1)圧力マイクロホンpressure microphone 音波による力を振動板の前面だけに作用させるものである。音圧に比例した電気出力をもつ。圧力(音圧)は,大きさだけをもち,方向性をもたないスカラー量であり,このタイプのマイクロホンでは受音点の圧力が等しければ音源の方向によらず等しい出力が得られる。このような指向特性を無指向性という(図6)。
(2)圧力傾度マイクロホンpressure gradient microphone 音圧の空間についての微係数(近接した二つの点における音圧の差を2点間の距離で割った値にほぼ等しい)に比例した出力をもつ。この微係数は音波の粒子速度に比例することから,ベロシティマイクロホンと呼ばれることもある。このタイプのマイクロホンは,振動板の両面に音波による力が作用し,両指向性を示す(図4)。また,振動板背面に適当な音響遅延路と漏れ穴を設け振動板背面への音波の入射量を減少させることにより,指向特性を両指向性から単一指向性,無指向性へと変化させることもできる(図5)。
ラペルマイクロホンlapel microphoneは話者の衣服につけて使う小型のもの。エレクトレットコンデンサー型が多い。ラインマイクロホンline microphoneは圧力型マイクロホンの前に,長さの異なる筒(直径1cm程度,長さは20cm~1.5m程度)を数本ならべ,正面方向で合成音圧最大とし,それ以外では筒ごとの行路差により合成音圧が減少するようにしたもの。鋭い指向性をもち,遠くの音源の集音に有効。バウンダリーマイクロホンは,机の上など平面の上に振動板を平行に設置する薄型の板状のマイク。平たんな周波数特性と半球状の指向特性をもつ。
執筆者:中林 克己
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…ある物理量が信号を伝える媒体として使われているとき,信号の質を変えずに媒体を別の物理量に変える機能をもつ器具をトランスジューサーという。例えばマイクロホンは音波が伝える信号を電気信号に変換するトランスジューサーで,空気圧という信号の媒体を電圧という媒体に変えるものである。また,スピーカーは電気信号を音の信号に変換するトランスジューサーであるが,一度取り込まれた信号に手を加えたものを出力するという点でマイクロホンとは使用目的が異なっている。…
※「マイクロホン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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