翻訳|sonar
sound navigation and ranging(音響航法と測距)の略。ソーナーとも表記する。広い意味では航海,通信,水中標的の測位などに水中音波を利用する方式とそのための機器の総称である。同種の目的に光,電波なども用いられるが,水中での減衰が大きく,比較的近距離でしか使用されない。水中での通信に音波が有用であることは,レオナルド・ダ・ビンチの記録(1490)にその示唆がみられるように,経験的には古くから知られていた。タイタニック号事件(1912)を契機として,航海の安全を保つため水中障害物を発見し,障害物までの距離を測定する機器の開発が開始され,第1次世界大戦において潜水艦を捜索する手段として発達が促進された。その後,第2次世界大戦をへて改善,進歩が続けられ今日に至っているが,現在でもソナーのおもな目的の一つは対潜水艦用にある。
ソナーの方式を大別すると,アクティブソナーとパッシブソナーの二つになる。アクティブソナーは水中にパルス信号音を発射し,標的からの反射音を受信して,反射音の方向ともどってくるまでの時間から標的の方向と距離を測定するものである。この方式のものとしては,魚群探知機,音響測深器,潜水艦および機雷探知用ソナー,海底などの形状を知るサイドルッキングソナーなどがある。パッシブソナーは水中聴音機とも呼ばれ,自分からは信号音を発射せず,船などから水中に出る音を聞いてその存在や方向を知るもので,おもに潜水艦捜索探知に用いられる。このほか特殊なものとして,水中電話や水中音響ビーコンなどが実用化されている。本項目では以下で対潜水艦用ソナーについて解説する。魚群探知機についてはその項目を,音響測深器,サイドルッキングソナーについては〈測深器〉の項目を参照されたい。
対潜水艦用ソナーは第2次大戦まではそのほとんどが水上艦艇の艦底に突出する形で装備されていた。近年潜水艦の速力,潜航深度,航続距離が増大し,搭載するミサイル等の攻撃兵器が進歩したことにより,これに対抗するためソナーの形式,用法,性能も大きく変化してきた。ソナーは水上艦艇以外にも航空機(固定翼機,ヘリコプター),潜水艦,海底等に装備設置されるようになり,ソナーからの情報も一ヵ所に集約され,総合的に分析されるようになってきた。これと並行してソナーそのものの形式や用法も大きく変化している。潜水艦探知のうえからアクティブソナーとパッシブソナーを比較すると,アクティブソナーは潜水艦の位置(方位,距離)が正確に得られるが,反面その発射信号音が相手側に聞かれ,捜索活動を察知される欠点をもっている。一方,パッシブソナーは位置の測定精度は劣るが,相手に捜索をさとられない利点をもつため,近年重要性が高まっている。また,従来の艦艇装備に加えて,曳航式,つり下げ式,ブイ形式(ソノブイ),固定式が出現し,アクティブソナー,パッシブソナーとも規模はより大きくなった(図1)。また周波数が低くなると信号はより遠方まで到達するので,使用する信号音の周波数はより低い領域に移りつつある。
ソナーによって潜水艦を探知するためにはさまざまな技術を必要とするが,その主要なものに次の二つがあげられる。(1)海洋音響特性 地上での光や電波に比べ,海中での音ははるかに複雑な伝わり方をし,場所,季節などで変化する。このため,海域の音響的性質を調査することが重要となり,この目的のために海洋観測船を持つ海軍が多くなっている(図2)。(2)目標類別技術 ソナーで潜水艦の探知を確認するには,アクティブソナーでは海面,海底,魚群などからの紛らわしい反響音を,パッシブソナーでは船舶から発する水中音のなかから潜水艦の音を,区別して取り出し確認する必要がある(これを目標類別という)。
パッシブソナーの場合,艦船の航走音の音色を調べるため,まずこれを目で見えるようにする。このためには音を狭帯域周波数分析し,その結果を記録紙の上に描き出す。これを通常,音紋と呼び,パターン認識によりこの音紋の特徴をとらえ目標類別を行う。このためにはあらかじめ多くの艦船の航走音を集収分類しておく必要がある。
執筆者:漆原 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
音波を利用して海底、船舶、魚群その他の物標(目標となる物)との距離を測定し航海の用に供する装置。sound navigation and rangingの略語。パッシブソナーassive sonarとアクティブソナーactive sonarの2種がある。パッシブソナーは、船舶や魚が発する音の方向、距離、強さなどを測定する受信専用ソナーである。アクティブソナーは、音波を発射して物標からの反射音を受信し、方位、距離を測定する方式で、水平ソナーと垂直ソナーに分類される。ただし、垂直ソナーは通常、音響測深機、魚群探知機などとよばれ、ソナーといえば水平ソナーをさすのが普通である。
ソナーは、ある方向に送波器を向けて音波のパルスを発射し、その方向からの反射波を受信してから次の方向に向けて同じ過程を繰り返すのが原則である。この点ではレーダーと同じであるが、水中音波の速度は毎秒約1500メートルと遅いので、アンテナを速く回転することができないから、パルスの繰り返し周波数を低くしなければならず、特別のくふうが必要なので、次のような方式がある。
(1)扇形(せんけい)走査方式 船首を中心として左右数十度だけを走査する。
(2)螺旋(らせん)状探査方式 送波器から全方向にパルスを発射し、ビーム幅の小さい鋭い指向性をもつ受波器を高速度で回転させて、各方向から帰ってくる反射波を次々に受信する。
(3)多重探査方式 螺旋状探査方式で1個の受波器を回転させるかわりに、鋭い指向性の受波器を円周上にいくつか装備しておき、これを順次切り替えて受信する。
ソナーの表示では方向と距離と水深の三つの情報が必要なので、平面的な画面に表しにくいが、表示の方法もいろいろとくふうされている。
ほかにドップラーソナーとよばれるものがあるが、これは方位・距離を測定するものではなく、音波のドップラー効果を利用して船の速力を測定する装置である。
[飯島幸人]
『伊関貢・庄司和民著『航海計器学』(1950・海文堂)』▽『飯島幸人・林尚吾著『航海計測』(1986・成山堂書店)』▽『岡本幸雄著『電波機器と超音波機器――レーダから魚群探知機まで』(1987・無線従事者教育協会・CQ出版発売)』▽『米沢弓雄著『基礎航海計器』(1995・成山堂書店)』▽『田口一夫・田畑雅洋著『海洋計測工学概論』(1997・成山堂書店)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…音響測深機(ソナー)と同じ原理(水中に超音波パルスを発射し,それが物体に当たって反射してくるのを受信して,その時間から物体までの距離を知る)を用いて,魚あるいは魚群の位置,大きさを知る機械で,魚探と略されることが多い。魚群探知機によって得られる情報は,海底,魚ないし魚群の位置,性状だけでなく,漁具の状況,海洋条件(温度躍層,潮境など)もあり,目で見ることの難しい水中の情報を伝えてくれる有力な道具である。…
…コウモリが超音波を使って障害物の位置を検知し,暗いところでも自由に飛び回ることができるのはよく知られているが,これと同様に,水中に放射した超音波の反射音を利用して海底の地形測量を行ったり,潜水艦や魚群の位置を探知することができる。第1次世界大戦のころ,フランスのP.ランジュバンが水晶を使った超音波送受波器を開発したのが実用化の始まりで,現在では,こうした装置をソナーと総称している。水中では電波を利用することができないので,超音波を使ったソナーは,空気中のレーダーのような役割をもった重要な装置になっている。…
※「ソナー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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