ある種の結晶性物質では,応力により弾性的な変形がおこると変形に正比例した電荷が表面に現れる。また,この物質に電場を加えると電場の強さに正比例した変形が生ずる。これらの現象を圧電気という(前者を正効果,後者を逆効果)。ピエゾ電気とも呼ばれ,ピエゾとはギリシア語のpiezein(押す)を語源とする。正効果は1880年にフランスのキュリー兄弟Jacques and Pierre Curieによって,水晶,ロッシェル塩,電気石などで発見された。逆効果は81年にフランスのリップマンGabriel Lippmannにより熱力学的考察に基づいて指摘され,その存在はキュリー兄弟により実証された。
圧電気は結晶を構成している陽イオンと陰イオンの空間的配置に点対称(対称中心)がない場合に出現するが,力の方向と電荷の出現する方向とには結晶の対称性によって決まる特定な関係がある。点対称のない物質に圧電気が生ずることは図のような一次元模型について考えてみると明らかになる。正負の電荷を結ぶばねは物質の弾性に対応し,ばねの強さが交互に変わっているためこの模型はどこにも対称中心がない。正電荷と負電荷の間隔をl,電荷をqとすると,この両者の積qlは電気双極子と呼ばれる物理量となり,負電荷から正電荷に向かうベクトルで表される。また,表面に現れる電荷量はこの電気双極子の総和に正比例している。図で力が加えられていない場合に,イオンが等間隔に並んでいるとすると,各双極子の大きさは等しく,向きが交互に反対となっているので,双極子の総和は0となる。すなわち,表面には電荷が存在しない。しかし,長さ方向に引っ張ると,右向きの双極子と左向きの双極子とのバランスがくずれ,双極子の総和は有限となり,これに対応した電荷が表面に現れる(正効果)。この双極子の総和,すなわち,電気分極の大きさは,両端に加えた力に正比例し,分極方向(表面電荷の符号)は引っ張った場合と圧した場合とで逆転する。長さ方向に電場をかけた場合は,正電荷に働く力と負電荷に働く力とは等しいが方向が異なるため,ばねの変形量のバランスがくずれ,全長が変わる(逆効果)。
結晶は構成イオンの配列のしかた,すなわち,イオン配置の対称性から32の結晶群に分類されるが,このうちの20種類は圧電気を示す。結晶のほかにPZT(PbTiO3とPbZrO3の混晶)磁器に高電場をかけて分極方向をそろえたもの,高分子膜(とくに,ポリフッ化ビニリデン膜)を一軸延伸し,膜面に垂直に高電場を加えて異方性を作ったものなどが顕著な圧電気を示すものとして知られている。なお,効果は非常に小さいが,骨や木材などの生体物質にも圧電気が観察される。
圧電気は電気的信号と力学的信号とを結ぶ変換器として広く用いられ,時計や通信用の水晶振動子,テレビのSAW(表面音響波)フィルター,マイクロホン,圧電着火器など身近な利用例も多い。
執筆者:小川 智哉
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結晶に外部応力を加えるとき、その結晶の電気分極が変化する性質。ピエゾ電気あるいは圧電性、圧電効果ともよばれる。1880年に、キュリー兄弟Jacques Curie, Pierre C.によって、電気石について発見された。逆に、結晶にこの性質があるときには、結晶に外部電界をかけると、結晶のひずみが変化する。前者の性質は正圧電気で、後者の性質は逆圧電気であるが、この両者をいっしょにして圧電気と総称される。応力によって電気分極が変化する量、あるいは電界によってひずみが変化する量は、普通それぞれ応力あるいは電界に比例するが、この比例定数は圧電率またはピエゾ定数とよばれる。
結晶板を側方から押すと、板面に垂直方向に下向きに電気分極が発生する。結晶内に電気分極が発生すると、外部の回路に電圧が生じる。一般に、方向性のある物質すなわち結晶においては、応力は2階テンソルで、これには三つの伸張(または圧縮)成分と三つのずれ成分とがあり、一方、電気分極はベクトルで三つの成分をもつ。したがって、結晶の応力と電気分極との関係はかなり複雑である。結晶にどのような応力をかけると、どのように電気分極が変化するかは、結晶の対称性によって完全に定まっている。結晶のなかには圧電気を示すものと示さないものとがあるが、これもその結晶の対称性がどうであるかによって定まっているのである。
圧電気は、機械的変化を電気的変化に変え、逆に電気的変化を機械的変化に変えるのにたいへん有用な性質であり、水晶時計、ピックアップなど、圧電性を利用した機器は多数ある。圧電気が強いのは強誘電体である。
[沢田正三]
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ピエゾ電気ともいう.イオン結晶は外力による応力に対応して,特定の方向に誘電分極を生じる.これを圧電気あるいはピエゾ電気という.原因は分子論的にみると結晶が応力に対応してひずみ,正電荷をもつイオンの中心と,負電荷をもつその中心とが相対的にずれるためと考えられる.逆に,結晶は電場を受けるとひずみを生じる(逆圧電効果).水晶,ロシェル塩,チタン酸バリウム,アデノシン二リン酸などは圧電効果が大きく実用化されている.用途は,圧電効果の利用としてクリスタル-ピックアップ,イヤホーン,ガス点火装置などがあり,逆圧電効果の利用として受話器,拡声器,超音波発生器などがある.また,両効果の利用として水晶振動子,結晶を用いたフィルターなどがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…電場によって,誘電体に電場に比例する電気分極が生じ,その分極した誘電体が電気分極と電場に比例するひずみを生ずるものである。誘電体結晶が対称中心をもたないときにも,電場を加えると電場に比例するひずみが生ずるが,これは一般に圧電気現象と呼び,電歪とは区別するのがふつうである。電歪による結晶のひずみは,圧電気によるひずみに比べるときわめて小さく,実際観測にかかるのは,酸化チタン(IV)バリウムBaTiO3などの強誘電体など限られた結晶だけである。…
※「圧電気」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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