コイルを貫く磁束が変化することにより、コイルに起電力が発生する現象。コイルを貫く磁束数を変化させる主な方法、すなわち誘導起電力を発生させる方法は六つある( )。(1)コイルに対して磁界(磁場)の源である磁石を動かす方法。(2)磁石を固定しておきコイルを動かす方法。コイルを貫く磁束は、磁石とコイルの相対的位置関係だけで決まるので、この観点からみれば(1)、(2)は同等のものである。(3)、(4)の方法は(1)、(2)の磁石を電磁石(電流回路)で置き換えたものである。磁石と電流回路は同等であるとみなされるので、(1)と(3)、(2)と(4)は本質的に同じものである。(5)磁界の中でコイルを変形させる方法。(6)コイルおよび電磁石は固定しておき、電流回路の電流のみを変化させる方法。これらのどの方法によってコイルを貫く磁束を変化させても、コイルに生ずる起電力の大きさは、コイルを貫く磁束の時間変化率に等しい。電磁誘導による起電力を誘導起電力という。誘導起電力の正の側がコイル端子a、bのどちら側に現れるかを判断する方法の一つは、レンツの法則による方法である。コイル端子a、bを接続すると、誘導起電力による電流が流れる。この電流がつくる磁界によりコイルを貫く磁束は、初めの磁束変化を妨げる向きのものでなければならない。もう一つの方法は、回路の向きと、回路を貫く磁束の正負の向きを考える方法である。 において、回路を回る向きを矢印のように定めた場合、この回路を貫く磁束の正負を図に示すように定める。これはいわゆる右ねじの法則と一致しており、回路を回る向きが右ねじの回転方向、磁束の正の向きは右ねじの進む向きに相当する。誘導起電力は、磁束が正の向きに増大するとき、回路を回る向きと逆向きに発生する。この意味で、誘導起電力を逆起電力ということもある。
磁界の中で電荷qが運動するとき、電荷は磁界から磁力を受ける。その向きは、磁界と速度とが定める平面に垂直な向きである。一般にこのような力をローレンツの力とよぶ。 に示すように、磁界と速度が垂直な場合はフレミング右手の法則に相当している。 の(1)から(5)までの電磁誘導の法則は、電荷が磁界から受ける力によって説明される。しかし、(6)の場合は、ローレンツの力から説明できない。それゆえ、電磁誘導の法則は原理的な法則として意味をもつのである。電磁誘導の法則は、電界・磁界のすべての法則を表すマクスウェルの方程式の四つの式の一つとなっている。
電磁誘導の法則は、われわれの生活とも関係が深い。交流電流を流せば磁束も交流となり、その時間変化によって二次コイルに誘導起電力を発生する。この電圧は、一次コイルに加えた電圧に、二次コイル巻数の一次コイル巻数に対する比を乗じたものになる。 は発電機の原理図である。一定の磁界があり、その中で針金の枠が回転するようになっている。枠が磁界と平行になっているときは、この枠を貫く磁束はゼロである。垂直なときは、最大の磁束が貫く。枠を回転させると、枠を貫く磁束が変化し、枠に誘導起電力が発生する。この電圧を外部へ取り出す。電気回路において、抵抗、コンデンサー、コイルは線形回路素子として重要である。コイルに流れる電流が変化すると、コイルに逆起電力が発生し、コイルに流れる電流の変化を妨げる。それゆえ、コイルには、交流周波数に反比例して交流電流を通しにくくする働きがある。これに対してコンデンサーは交流周波数に比例して交流電流を通しやすく、抵抗は交流周波数と無関係な交流電流の通りにくさ(抵抗値)をもつ。
は変圧器の原理図である。一次コイルに電流を流すと、発生した磁界は鉄芯(しん)によって効率よく二次コイルへ導かれる。一次コイルに[山口重雄]
一つの閉じた回路の面を貫いている磁束の量が変化したとき,その回路に沿って起電力が生じ過渡的な電流が流れる現象。その起電力を誘導起電力induced electromotive force,電流を誘導電流induced currentと呼ぶ。1831年M.ファラデーによって発見され,それまで別の現象と考えられていた電気と磁気との間に関係があることが示された。閉じた回路の近くで永久磁石を動かすか,あるいは電流が流れている他の回路を動かしたり,その電流を切ったりしたときこの現象が観測されるほか,また閉じた回路に流れている電流が変化した場合にも,この回路を貫く磁束が変化するため回路に誘導起電力を生ずる。これを自己誘導といい,これに対して,二つの電流回路を流れる電流の一方が変化することによって,他方の回路に誘導起電力が生ずる場合を相互誘導という。これらの現象でたいせつなことは,電気的量,または磁気的量が時間的に変化していることである。すなわち電気と磁気とは時間変化を通して初めて関係づけられることになる。磁束Φの時間変化dΦ/dtと回路内に発生する誘導起電力-Eとの間には,
-E=\(\frac{dΦ}{dt}\)
という式が成り立つ。この式はF.E.ノイマンによって定式化されたものであるが,これからわかるように,誘導起電力の大きさは磁束の時間変化に比例する。またその方向は誘導電流の作る磁場によって磁束の変化が打ち消される方向であり,これは自然が示す一つの慣性と見ることができる。なお,この誘導起電力の生ずる方向を与える法則は1834年にH.レンツが明らかにしたもので,レンツの法則と呼ばれている。
後にマクスウェルは,場の量である電場Eと磁束密度Bを使いこの関係式を,
rotE=-\(\frac{∂B}{∂t}\) ……(1)
とかき直した。閉回路について成立していたファラデーの電磁誘導の法則は,マクスウェルの式によって空間のいたるところで成り立つ法則に拡張されたわけである。マクスウェルはこの考えをさらに発展させて,電気的原因が磁場を発生することを考えた。すなわち電束密度Dが時間的に変化すると,その周囲を取り巻くような向きに磁場Hができるはずと考えた。式で表すと,
rotH=\(\frac{∂D}{∂t}\) ……(2)
となり,これは(1)式と対称的な式となっている。この式は,電流iがその周囲に磁場を作る現象,すなわちアンペールの法則,
rotH=i ……(3)
に類似しているので,\(\frac{∂D}{∂t}\)を変位電流と呼び,(2)(3)を合わせた式,
rotH=i+\(\frac{∂D}{∂t}\)
を拡張されたアンペールの法則ということがある。当時(2)の式を直接実証する実験はなかったが,電流以外にも磁場を作る原因があると考えたことは,マクスウェルの天才的な着想であった。二つの電磁誘導の式(1)(2)は連立して,電磁波を表す式を導く。電磁波の存在が(2)の式の正しさを証明しているといえる。
ファラデーの電磁誘導の法則は,発電機や電動機の原理として利用されている。すなわち,磁場の中でコイルを回転し,それを貫く磁束が変化するようにさせて発生した起電力を外にとり出すのが交流発電機である。逆に磁場中にあるコイルに電流を流すと,コイルはその面を貫く磁束がいつでも一定になるように回転する。これは電動機の一つの原理である。
執筆者:清水 忠雄
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