酒石酸ナトリウムカリウムC4H4O6KNaの立体異性体の一つであるL-酒石酸ナトリウムカリウムの別名。ほかにR-酒石酸塩,メソ酒石酸塩もある。無色の結晶。約55℃で融解してカリウム塩とナトリウム塩に分離する。ロッシェル塩は1655年ころ,フランスの港町ラ・ロシェルの薬剤師セニエットÉlie Seignette(1632-98)によって初めて調製された。当時利尿剤,緩下剤として広く用いられていた酒石(L-酒石酸水素カリウム)より水に対する溶解度が大きかったため,〈セル・ポリクレステ(長所に富んだ塩)〉という名称で販売されると直ちに広く普及した。ロッシェル塩,あるいはセニエット塩の名が用いられたのはこの後のことである。欧米では20世紀前半まで家庭常備薬として広く用いられた。
化学薬品としてもロッシェル塩は化学者によって広く用いられた。1858年フェーリングHermann von Fehling(1812-85)はフェーリング液に,同じころJ.vonリービヒは銀鏡反応に,それぞれロッシェル塩を用いた。80年キュリー兄弟はロッシェル塩の物性の研究中に圧電気現象を発見した。それより前L.パスツールも,結晶に関する初期の研究でロッシェル塩を用いている。このように多くの化学者によってロッシェル塩が用いられた理由は,この物質が当時のほとんど唯一といってよい化学工業であったブドウ酒醸造工業の産物であり,入手が容易だったからである。
執筆者:竹内 敬人
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