犯罪で得た収益の出どころや所有者を分からないようにして、捜査機関による摘発を逃れようとする行為。資金洗浄とも呼ばれる。他人名義の口座などを使った海外送金や電子マネー、暗号資産(仮想通貨)に交換するのが代表的な手口。警察庁によると、マネロンの疑いがある取引だとして金融機関が2023年に同庁に届け出た件数は70万7929件で、3年連続過去最多を更新した。
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麻薬の違法取引や犯罪にからんで得た不正資金を、銀行口座などを利用することによって、その出所や流れをわからなくしてしまうこと。汚れた金を「洗濯、洗浄」するという意味で資金洗浄ともいわれる。他方、テロ活動を支援するための資金調達のことをテロ資金供与という。テロ活動については2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ以降、国際社会におけるテロの脅威が高まっていった。テロへの対応においては未然防止が重要であり、そのためにはテロ組織の活動を支える資金供給の遮断と資金供給ルートの解明、国際的な連携が欠かせない。これはマネー・ロンダリング対策と同様であることから、「マネー・ロンダリングおよびテロ資金供与対策」とひとくくりにして、国際的に関係法令等の整備が急がれ、金融機関等の特定事業者においても順次対応が進められている。
1989年7月のフランスのアルシュ・サミットの経済宣言を受けて設立された政府間機関である金融活動作業部会(FATF(ファトフ))は、1990年にマネー・ロンダリング対策として各国が取り組むべき「40の勧告」を策定した。ここではマネー・ロンダリング取締りのための国内法制の整備、金融機関等に対する顧客の本人確認および疑わしい取引の届出の義務化などを規定した。その後1996年には、マネー・ロンダリング罪の前提となる犯罪の範囲を、薬物犯罪だけでなく重大犯罪にも拡大するとともに、疑わしい取引の届出制度の対象となる犯罪も同様に拡大すべきといった改定を行った。1998年3月には、バーミンガム・サミットで、マネー・ロンダリング情報の受理・分析・提供を行う単一の政府機関として資金情報機関(FIU:Financial Intelligence Unit)を各国に設置することが合意された。
1998年9月にパリで開かれた会合では「日本の対策は有効ではない」との厳しい審査報告が採択された。日本ではマネー・ロンダリング行為で処罰されるのは、麻薬取引で得た収益に限られ、すでに三十数か国で実施されている疑わしい取引の届出制度も形だけに終わっている点が問題視された。1999年(平成11)8月、日本ではマネー・ロンダリングなどを規制する組織的犯罪処罰・犯罪収益規制法(組織犯罪処罰法)が成立し、2000年(平成12)金融監督庁(現、金融庁)には特定金融情報室(JAFIO:Japan Financial Intelligence Office。日本版FIU)が設置され本格的取組みが始まった。なお2007年、JAFIOの業務は国家公安委員会・警察庁に移管され、名称も犯罪収益移転防止対策室(JAFIC:Japan Financial Intelligence Center)となった。さらにテロ資金供与対策のため、FATFが2001年に「8の特別勧告」、2004年に1項目を追加した「9の特別勧告」を採択したことを受け、日本でも、疑わしい取引に関する情報を外国関係機関に提供するなど、マネー・ロンダリング対策およびテロ資金供与対策における国際的な連携を強化した。
しかし、2008年10月に公開されたFATFによる対日相互審査(第三次対日相互審査)報告書概要では、全49項目(マネー・ロンダリング対策に関する勧告40項目、テロ資金供与対策に関する特別勧告9項目)の勧告中、「テロ資金供与の犯罪化が不完全(テロ行為へのアジトの提供など物的支援も処罰対象とすべき)」、「金融機関、非金融機関に対し適用のあるマネー・ロンダリングおよびテロ資金供与の予防措置に関し、顧客管理の要件や義務の一部欠如」などを含む、25の項目について不備が指摘された(フォローが必要となる「一部履行」が15項目、「不履行」が10項目)。このFATFによる第三次対日相互審査に対するフォローアップ・プロセスのなかで、2011年4月には犯罪収益移転防止法を一部改正(2013年4月全面施行)したほか、2014年にはいわゆるFATF関連三法といわれる、改正テロ資金提供処罰法(2014年12月施行)、国際テロリスト財産凍結法(同法政省令とともに2015年10月施行)、改正犯罪収益移転防止法(同法政省令とともに2016年10月施行)をそれぞれ成立させた。また、2017年7月には国際組織犯罪防止条約(パレルモ条約)を締結するための改正組織犯罪処罰法も施行され、マネー・ロンダリングおよびテロ資金供与の予防に対する重要な改善が実現した。
その後、第4回目となるFATFによる対日相互審査(第四次対日相互審査)に対応できる態勢強化を目ざし、金融庁では2018年3月に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表した。しかし、第三次対日相互審査では法令等の整備状況が中心的な審査項目であったが、第四次対日相互審査では「金融機関等および当局の双方がリスクベースで実効的な対策を実施しているかが審査の重点」とされていることから、金融庁では2018年8月に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」を発表した。ここでは、金融庁所管事業者の対応状況等を中心に、2018年8月時点の日本におけるマネー・ロンダリングおよびテロ資金供与対策の現状と今後の課題について取りまとめられている。
そして、第四次対日相互審査は2019年(令和1)に実施され、FATFは2021年に審査報告書を公表した。2008年の第三次対日相互審査以降のさまざまな取組みを踏まえて、日本のマネー・ロンダリング対策等の成果があがっていることが認められつつも、第四次対日相互審査において、日本は全体として上から2番目の「重点フォローアップ国」との評価となった。「重点フォローアップ国」は審査済みの33か国・地域中、アメリカやドイツなどを含む17か国が該当し、他国との比較でみれば日本は標準的といえる。なお、日本のマネー・ロンダリング対策等をいっそう向上させるため、金融機関等に対する監督・検査や法人等の悪用防止、捜査・訴追などに優先的に取り組むべきとされた。
第四次に続く、第五次対日相互審査は2024年から開始されることが発表された。日本は、第四次対日相互審査において指摘された勧告事項の改善とともに、40の勧告の改訂が進められている拡散金融や暗号資産管理等に関する対応は、より厳しく審査されることが予想される。また、環境犯罪への対応などFATFが注視する新たな分野に関する言及もあり、その対策も求められる可能性もあるため、第五次対日相互審査に向けて、官民が連携しマネー・ロンダリング対策等の高度化に取り組んでいく必要がある。
なお、海外企業誘致のため、企業に対して税制上の優遇措置を与える国(地域)をタックス・ヘイブンというが、各国ともマフィアなどによるマネー・ロンダリングを防止して、税収を確保するため、特定外国子会社の所得を親会社の所得と合算して課税する制度を導入するなど、タックス・ヘイブン利用の規制に努めている。
[前田拓生 2024年1月18日]
『神田眞人著「対日金融審査について」(『ファイナンス』平成29年9月号所収・2017・財務省)』▽『福井康人著「マネロン対策・テロ資金供与対策・拡散金融対策の最近の動向」(『CISTECジャーナル』2018年9月号所収・2018・安全保障貿易情報センター)』▽『法務省法務総合研究所編『犯罪白書』各年版』▽『〔WEB〕金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(2018) https://www.fsa.go.jp/news/30/20180206/besshi1.pdf(2024年1月閲覧)』▽『〔WEB〕金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」(2018) https://www.fsa.go.jp/news/30/20180817amlcft/20180817amlcft-1.pdf(2024年1月閲覧)』▽『〔WEB〕金融活動作業部会(FATF)『マネロン・テロ資金供与対策』(2021) https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/amlcftcpf/20221228.pdf(2024年1月閲覧)』▽『〔WEB〕井口弘一「FATF第4次対日相互審査結果と今後のAML/CFT対策」(『PwC's View』第35号・2021・PwCあらた) https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202111/35-07.html(2024年1月閲覧)』▽『〔WEB〕金融庁「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題」(2023) https://www.fsa.go.jp/news/r4/20230630/2023063001.pdf(2024年1月閲覧)』▽『〔WEB〕外務省「日本の国際テロ対策協力 テロ資金対策」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/kyoryoku_05.html(2024年1月閲覧)』▽『〔WEB〕警察庁犯罪収益移転防止対策室「JAFICと国際機関等の連携」 https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/kokusai/kokutop.htm(2024年1月閲覧)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)
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