国際組織犯罪防止条約(読み)コクサイソシキハンザイボウシジョウヤク(その他表記)United Nations Convention against Transnational Organized Crime

デジタル大辞泉 「国際組織犯罪防止条約」の意味・読み・例文・類語

こくさいそしきはんざいぼうし‐じょうやく〔コクサイソシキハンザイバウシデウヤク〕【国際組織犯罪防止条約】

《「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(United Nations Convention Against Transnational Organized Crime)」の略称》国際的な組織犯罪に効果的に対処するための国際協力の促進を目的とする条約。2000年の国連総会で採択され、2003年9月発効。日本は2017年に締結TOC条約。イタリアのパレルモで署名会議が行われたことから、パレルモ条約ともいう。→人身取引議定書密入国議定書銃器議定書
[補説]重大な犯罪の実行についての合意犯罪収益資金洗浄を国内法で犯罪と定めること、犯罪人引渡手続を迅速に行うよう努めること、捜査訴追・司法手続において最大限の法律上の援助を相互に与えることなどを規定している。

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共同通信ニュース用語解説 「国際組織犯罪防止条約」の解説

国際組織犯罪防止条約

国際的な組織犯罪を防ぐため、各国がそれぞれの刑事司法制度を整備し、協力を促進するための条約。重大な犯罪の合意やマネーロンダリング(資金洗浄)などを犯罪とするよう義務付けている。2000年に国連総会で採択され、日本も署名。187の国・地域が既に締結している。政府はテロの未然防止や各国との円滑な捜査協力を理由に早期締結を目指している。国会審議では、条約の目的はテロ対策ではなくマフィアなどによる経済的な犯罪の防止との指摘も出た。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際組織犯罪防止条約」の意味・わかりやすい解説

国際組織犯罪防止条約
こくさいそしきはんざいぼうしじょうやく
United Nations Convention against Transnational Organized Crime

2000年11月15日に国連総会で採択された組織犯罪の防止・抑圧に向けた国際間の協力の促進を目的とする条約。正式名称は「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」で、英語名称のうち、国際組織犯罪を意味するTransnational Organized Crimeの頭文字をとってTOC条約と略されたり、本条約の署名地にちなんでパレルモ条約とよばれたりすることもある。本条約の補足議定書として、人身取引議定書、密入国議定書、銃器議定書がある。

 組織犯罪対策に向けた近時の各国間の協力は、1989年にパリで開催されたアルシュ・サミットでの合意に基づき、いわゆる麻薬新条約が締結されたことに始まる。1990年代には、国連を中心とした組織犯罪の防止抑圧に対する取組みが本格化し、1991年の国連総会決議で「犯罪防止および刑事司法計画」の優先課題として組織犯罪への対処を掲げ、1992年に経済社会理事会の機能委員会として40か国の政府代表からなる「犯罪防止刑事司法委員会」(CCPCJ:Commission on Crime Prevention and Criminal Justice)が設置された。1994年11月には、142か国の参加者を集めた「国際組織犯罪に関する世界閣僚会議」が開催され、「国際組織犯罪に対するナポリ政治宣言および世界行動計画」を採択した。1997年12月、国連総会は、国際組織犯罪防止に関する可能な包括的条約案を準備するために政府専門家部会を設置し、CCPCJとともに精力的な議論が行われた。さらに、1998年12月の国連総会では、国際組織犯罪条約を起草するための政府間特別委員会の設置が決められた。ここでの条約起草作業を通じて条約案がまとめられ、本条約は2000年に人身取引および密入国の議定書とともに合意された。銃器議定書については引き続き議論が進められ、2001年に合意に達した。本条約は、2003年9月29日に規定の条件を満たし発効した。

 日本は、2000年(平成12)12月の署名会議で本条約に署名し、2003年5月に締結について国会承認されたが、締結したのはその約14年後の2017年7月11日である(発効は同年8月10日)。日本の締結により、2017年7月19日の時点で本条約の加盟国は188か国・地域となった。このように締結までに時間を要した理由として、条約の締結に必要な国内担保法の整備が進まなかったことが指摘されるが、その中心には共謀罪の問題があった。日本政府は、共謀罪にかえて、対象犯罪を絞り込み、実行行為を示す文言を「共謀」から「遂行計画」に変え、さらに実行準備行為によって処罰範囲の限定を図ったとされる「テロ等準備罪」の創設等の措置をもってこの問題は解決されたと考え、本条約の締結に踏み切った(これについては、「共謀罪」および「テロ等準備罪」の項を参照)。

 本条約では、第2条(b)に定める「重大な犯罪」(長期4年以上の自由を剥奪(はくだつ)する刑またはそれより重い刑を科すことができる犯罪)のほか、第5条(組織的な犯罪集団への参加)、第6条(犯罪収益の洗浄)、第8条(腐敗行為)、第23条(司法妨害)の行為について、性質上国際的なもので、かつ組織的犯罪集団が関与するものの防止および捜査・訴追について、本条約の適用がある。そのために、第5条等に定める上記の4種の行為の犯罪化やそれらの犯罪の重大性を考慮した制裁の賦課といった実体刑法の面での対応のほか、長期の出訴期間の確保、没収・押収およびそのための国際協力、裁判権の設定措置(いわゆる属地主義・旗国主義は必要的なものだが、積極・消極の属人主義は裁量による)、犯罪人の引渡し、法的な相互援助、共同捜査、証人の保護、被害者に対する援助・保護の提供等の刑事手続に関する措置が求められる。これらの措置は、基本的に国内法の原則に違反しない限りで要請されるが、テロ等準備罪のように、犯罪の実行の着手以前の行為を広範に処罰対象とするものについては、従来の国内刑法の原則からは異質なものであり、その意味を踏まえれば、本条約締結後も慎重な運用が求められるであろう。

[安達光治 2018年9月19日]

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