日本大百科全書(ニッポニカ) 「マリモ」の意味・わかりやすい解説
マリモ
まりも / 毬藻
球藻
lake-ball
[学] Aegagropila linnaei Kütz.
緑藻植物、アオミソウ科の淡水藻。伸長した糸状体が絡み合って球形の団塊を形成する。
マリモは、1823年、オーストリアの医師で植物学者のザウターAnton E. Sauter(1800―1881)がオーストリアのツェラー湖で採集し、発表したことから知られるようになった。日本では、1898年(明治31)に植物学者の川上滝弥(たきや)(1871―1915)が阿寒(あかん)湖で発見し、和名を「まりも」として発表したが、すでに湖畔に住んでいた人々は、マリモをトーカリップ(アイヌ語。沼を転がるものの意)とよび、乾燥させて座ぶとんに入れたり、針刺しにしたりして利用していた。阿寒湖のマリモは濃緑色で、大きいものでは直径25センチメートル以上の球団となる。これは世界的にも例をみない大きさである。なお、阿寒湖のマリモは1952年(昭和27)に国の特別天然記念物に指定された。
マリモを顕微鏡で観察すると、形態的には、基になる1本の幹から左右に枝が出て、その枝からさらに分枝して、これらが互いに絡み合って球団を形成していることがわかる。球化したマリモは大きくなると、中央が中腔(ちゅうくう)になるものが多い。マリモは、球団が解体すると、壊れた団塊が湖底に沈んだり、光合成によって生じた気泡をつけて水面に浮くほか、水中を浮遊したり、波によって湖底や波打ち際を転がったりする。このような上下する動きや転がる動きなどを通じて、ふたたびマリモは球団になると考えられている。また、球化せず、糸状体が絡み合って浮遊する不定形の塊となったり、苔(こけ)状の糸状体として二枚貝や石礫(せきれき)に付着したりして生活することもある。なお、球化していない場合でも生物和名としてはマリモを用いるが、慣用的には球化した形態をさしてマリモ(毬藻)とよんでいる。
分類的には、マリモをシオグサ属Cladophoraに含めたときもあったが、現在はマリモ属Aegagropilaとして区別している。おそらく一属一種で、おもに北半球の寒冷地帯に分布する。
マリモは日本では、北海道の阿寒湖や釧路(くしろ)湿原の湖沼群、青森県の小川原(おがわら)湖沼群、山梨県の富士五湖、滋賀県の琵琶(びわ)湖などでみつかっている。マリモは世界中で減少傾向にあり、これは人間活動による水域の富栄養化が原因と考えられている。とくに球化したマリモは、多くの地域で絶滅状態にある。また、山梨県の山中湖では、マリモの減少が地球温暖化に関係するのではないかと指摘されている。
一方、近年の遺伝子解析によって、富山県の立山(たてやま)町の民家の池に生息するタテヤママリモがマリモとは異なり、Aegagropilopsis属に含まれることがわかっている。このタテヤママリモは北海道から九州の幅広い地域で相次いでみつかっている。タテヤママリモは最大でも直径3センチメートルのやや粗な球体を形成する。2022年(令和4)には山梨県の甲府市の民家の水槽から、タテヤママリモと同じAegagropilopsis属のAegagropilopsis clavuligeraが発見され、モトスマリモと名づけられた。これらマリモ、タテヤママリモ、モトスマリモは形態だけで区別することはむずかしく、マリモ類とされることもある。確実な区別のためには遺伝子解析が必要である。
マリモと同じアオミソウ科に属し非常に緩い球状群体をつくるアオミソウ属Pithophoraも、マリモと間違えられることが多いが、こちらは特徴的なアキネート(休眠胞子)を形成することから容易に区別できる。
[辻 彰洋 2023年6月19日]