海に生育する海産藻類(海藻)に対し,陸水に生育する藻類を淡水藻または陸水藻という。現在,地球上には約3万種の藻類が知られ,淡水藻と海産藻類がそれぞれほぼ1/2をしめる。グループとして陸水にのみ生育する藻類は車軸藻類だけで,グループ全体の80~90%またはそれ以上の種類が陸水産である藻類は,緑藻類,ミドリムシ藻類,黄金色藻類(ヒカリモ類),黄緑藻類(不等毛類)などである。これとは逆に,海に多く生育する仲間は,紅藻類,褐藻類,ハプト藻類,渦鞭毛藻類などである。淡水藻は海産のものに比べて微細なものや小型のものが多く,もっとも大きい車軸藻のホシツリモでもせいぜい2m余である。ほかに大きいものとして,直径25cmくらいになる緑藻のマリモや長さ40~50cmになる紅藻のチスジノリなどがある。しかし,全体の生物量は大きい数値を示すので,第一次生産者として水界の生態系において淡水藻が果たす役割は大きい。
学問上貴重であるとして国の天然記念物に指定されている淡水藻には次の6種がある。ラン藻のスイゼンジノリ(熊本市江津湖),紅藻のチスジノリ(熊本県菊池川と鹿児島県川内川),紅藻のオキチモズク(愛媛県東温市の旧川内町,熊本県志津川および長崎県土黒川),黄金色藻のヒカリモ(千葉県富津市竹岡),緑藻のマリモ(北海道阿寒湖),車軸藻のシラタマモLamprothamnium succinctum Wood(徳島県出羽島大池)。ちなみに海藻では緑藻のクロキヅタCaulerpa scalpelliformis Ag.var.denticulata W.v.Bosse(島根県隠岐島)のただ1種である。
淡水藻の中には食用として利用されるものがある。おもなものにタンパク質を多量に含み栄養価の高い緑藻のクロレラとラン藻のスピルリナ,美味で干しノリまたはあえ物や吸物などの具として珍重される緑藻のカワノリ,ラン藻のスイゼンジノリとカワタケNostoc verrucosum (L.) Vaucher,中国料理に使われるハッサイ(髪菜) Nostoc commune Vaucher var.flagelliformis (Burk.et Curt) Bornet et Flach.などがある。とくにクロレラとスピルリナは光合成による高い生産性を示すので食品として注目を集め,すでに人工養殖が企業化されている。これとは逆に,大繁殖して水の華(淡水赤潮)を起こし,水質を変化させて有用魚貝類に被害を与える淡水藻もある。その代表はラン藻のアオコ,黄金色藻のウログレナUroglena americana Calkins,渦鞭毛藻のペリディニウムなどである。
執筆者:千原 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
海藻に対する語。淡水の河川、湖沼、湿地、水たまりに生育する藻類のほか、樹幹、岩石、土壌、コケなどの多少とも湿気のある所に生える気生藻、氷や雪の上に生える氷雪藻、温泉に生える温泉藻、さらには、動物(サンゴやミドリゾウリムシ)、植物(アカウキクサ)、菌類、地衣類と共生している共生藻などが含められる。このように淡水藻の生育する環境には大きな差異がみられるが、それぞれの環境には、そこに適応した種類がみられるのが普通である。褐藻類や紅藻類はおもに海産で、淡水にはごく限られた種類がみられるのみであるが、緑藻類、珪藻(けいそう)類などは両方に産し、ミドリムシ類は淡水産である。
[小林 弘]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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