改訂新版 世界大百科事典 「不動産業」の意味・わかりやすい解説
不動産業 (ふどうさんぎょう)
土地,家屋,ビルなど不動産の売買,賃貸,管理,土地の開発および家屋の建売分譲,不動産の売買などの代理・仲介などを行う業種の総称。不動産業の会社数は約12万4000社あるが,その大多数は零細中小企業で,資本金1億円以上の企業はこのうち1.4%を占めるにすぎない(1982)。事業所数でみると23万8000事業所(1981年総理府事業所統計)であるが,貸家業,貸間業を除くと9万1000事業所である。その内訳は,不動産賃貸業2万3000事業所(従業者10万人),建売・土地売買業1万4000事業所(同11万人),不動産代理業・仲介業4万1000事業所(同14万人),その他不動産業1万3000事業所(同6万人)となっている。これをみても明らかなように,事業所数,従業者数からみて不動産代理業・仲介業の占める比重が比較的大きい。
不動産業の特徴としては,第1に先にも述べたように零細中小規模企業の占める比重が圧倒的に高いことである。これは需給の地域性,個別性が強く,大量生産・大量販売がなじまないという不動産の商品特性からくるもので,必然的に営業区域が地域的に狭い,小規模業者が圧倒的に多数を占めることになる。第2に,不動産業の企業活動には国土利用計画法,土地税制など,きわめて多くの公的な規制がかけられていることである。とくに日本経済が高度成長期から安定成長期へ転換した1974年以降この様相が強まり,不動産業の活動にはさまざまな制約が課されるようになっている。
不動産の売買・仲介を行う個人業者はすでに明治時代の初期から存在していたが,本格的な不動産会社が出現してきたのは1896年に東京建物が設立されて以降である。その後,箕面有馬電気軌道(1907設立。現,阪急電鉄)の大阪府池田での土地開発分譲,住宅供給をはじめとして,明治末期から大正時代にかけて,田園都市(1918設立。東急不動産の前身),箱根土地(1920設立。国土計画の前身)などの電鉄系各社による都市郊外での土地開発と住宅供給が盛んになった。昭和になってからはオフィス街のビル経営も本格的になり,1937年に三菱地所が,41年に三井不動産が設立され,財閥の不動産部門が独立しはじめた。しかし第2次大戦前の不動産業界は概して小規模で,産業としての形態はまだ整えていなかった。
第2次大戦後
戦後もしばらくの間は,不動産業といっても零細な仲介業,賃貸管理業が中心の時代が続いた。しかし昭和30年代半ば以降,日本経済の高度成長が本格化すると,大都市への人口移動に伴って土地や住宅に対する需要が急増し,まず宅地開発や住宅の建売分譲が活発になった。これまでビル中心だった大手業者もつぎつぎと開発分野に進出して,大手,中小を問わず新規参入が盛んになった。そしてこれら宅地開発・建売事業はしだいに大型化し,大都市の市街地や郊外の広大な地域を総合的に開発する大型開発事業が行われるようになった。1955年からの三菱地所による東京丸の内オフィス街の再開発事業,57年からの三井不動産による千葉県の東京湾岸埋立て事業,1954年ころからの東急不動産による多摩田園都市事業などがこれである。
昭和40年代に入ると都市再開発が盛んになり,まずマンション分譲がブームを迎えた。マンションは当初都心の高級住宅として登場したが,その多様な立地展開と大量建設によって多様な価格設定が可能になり,都市住宅として普及していった。一方,1968年の三井不動産による日本初の超高層ビル〈霞が関ビル〉の完成を皮切りに,大手民間不動産会社による超高層ビルの建設が始まり,大手は従来のビル賃貸業から都市再開発を推進するデベロッパーへの転身が進んでいった。
しかし昭和40年代後半になると,1971年のドル・ショックとこれに続く金融緩和,〈日本列島改造論〉によって刺激された土地ブームのもとで,大小を問わず不動産業者は土地買いに殺到し,土地価格は暴騰してインフレ状態がもたらされた。こうした状況のもとで昭和40年代末から金融引締政策とともに,各種の土地開発規制策がとられるようになり,不動産業をめぐる環境は激変してきた。国土利用計画法(1974公布)による不動産取引や価格への規制,新土地税制による利益率制限などの規制が相次いで打ち出された。しかも1973年の石油危機を契機とする経済の低成長時代への転換のもとで土地・住宅需要は一挙に冷えこみ,不動産業界は大量の売れない土地,開発不能の土地を抱えこむことになった。
昭和50年代を通じて,こうした不動産業界にとっての厳しい環境は続いてきた。厳しい開発規制によって宅地供給は縮小したままであり,住宅需要も量から質の時代に変わって完全に低水準のまま推移している(〈宅地開発〉の項参照)。一戸建て住宅,マンション,ビルのいずれも,今後量的に大きな伸びは期待できない。しかし住生活や都市環境の質的向上に対するニーズは根強いものがあることから,より付加価値の高い新しい事業展開の可能性は大きく残されている。大手不動産業では,ホテルや郊外ショッピング・センターなどの新しい賃貸事業,等価交換方式によるマンション建設や土地信託方式によるビル建設などの新事業が模索されている。また中小業者が大半を占める不動産仲介業の分野でも,中小業者の協同化のほか,コンピューターによる物件検索や映像情報といった情報化への動きなど,新しい動きが出てきている。
→住宅問題 →土地問題
執筆者:中山 裕登
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報