体が緑色で,光合成の主要色素としてクロロフィルaとbをもち,光合成によりデンプンを生産して貯蔵する緑色植物から,維管束をもつ種子植物とシダ植物,胚をもつコケ植物,多細胞の生殖器官をもつ車軸藻類を除いた残りが緑藻類である。全世界で約1万種近くが知られ,そのうち90%弱が淡水産で,10%強が海産である。少数ではあるが,スミレモやフリッチエラFritschiellaなどのように空中に露出する岩上,樹上または地上等に生育するものもある。
体制は単細胞体から多核体にいたるまで多様性に富む。代表的な体制と分類群を記すと次のようである。(1)遊泳性単細胞体 クラミドモナス,ドゥナリエラDunaliella。(2)非遊泳性単細胞体 クロレラ,クロロコックム。(3)遊泳性群体 クワノミモ,ボルボックス。(4)非遊泳性群体 パルメラPalmella,ヨツメモ。(5)糸状組織体 アオミドロ,ツルギミドロ,ヒビミドロ。(6)葉状組織体 アオサ,アオノリ,カワノリ。(7)茎状組織体 フリッチエラ。(8)有隔多核体 シオグサ,バロニア,マガタマモ。(9)無隔多核体 イワヅタ,ハネモBryopsis,ミル。
ほとんどの緑藻類の細胞は細胞壁で囲まれるが,ドゥナリエラなどのように,細胞膜のみで,細胞壁を欠くものもある。細胞壁の主成分は大多数のものでは,高等植物と同じようにセルロースであるが,ミルやカサノリなどのように,多糖類のマンナンであるもの,イワヅタやサボテングサHalimedaなどのように,キシランであるもの,ハネモやツユノイトなどのように,複相の胞子体はマンナンであるが,単相の配偶体はキシランであるものもある。
生殖には無性と有性とがあり,無性生殖は,細胞壁を欠く単細胞性のものでは,細胞が縦に2分裂する方法で行うが,細胞壁をもつものでは遊走子によるのがふつうである。遊走子は先のとがった卵形で,前端に2~4本の等長むち形鞭毛をもつものがほとんどである。しかし,サヤミドロやツユノイトのように,前方が円頭形で,その部分に多数の鞭毛を冠状につけるものもある。有性生殖には遊泳性の同型配偶子(クラミドモナスなど),異型配偶子(アオサ,イワヅタ,ミルなど),および精子と卵による受精(カワノリ,コレオケーテなど)があり,またアオミドロなどのように同型の配偶子がアメーバ状に動いて接合するものもある。淡水産の緑藻類の接合子は休眠期を過ごした後に発芽するものがほとんどであるが,海産種では,ヒトエグサやヒビミドロなど少数のものを除いて,接合子はただちに発芽する。また淡水産のほとんどの緑藻類では,接合子の発芽の際に減数分裂が起こるので,藻体はつねに単相であるが,海産のものでは単相体と複相体があり,両方の体が同型のもの(アオサ,シオグサなど),単相体が複相体より大きいもの(ハネモ,ヒトエグサなど),複相体が単相体より大きいもの(ツユノイトなど)および複相体だけのもの(イワヅタ,カサノリ,ミルなど)がある。減数分裂は両相をもつ種類では遊走子形成の際に,複相体だけの種類では配偶子形成の際に起こる。
最近,細胞分裂の様式,遊走細胞の鞭毛基部の構造および光合成産物であるグリコール酸の代謝経路等の研究から,緑藻類には三つの系統群があることが明らかになってきた。第1は高等植物に続くコレオケーテ綱Coleochaetophyceaeで,アオミドロやコレオケーテなどが含まれ,第2は陸水にとどまった真の緑藻綱Chlorophyceaeで,クラミドモナス,ツルギミドロ,フリッチエラなどが含まれ,第3は海に生育するアオサ綱Ulvophyceaeで,アオサ,シオグサ,ミルなどが所属する。
緑藻類にはクロレラのように多量のタンパク質を含んで,栄養価の高い食品となるもの,アオノリ,ヒトエグサ,カワノリなどのように,風味があって乾ノリやつくだ煮にして食用とするものがある。ヒトエグサ,アオノリ,アオサなどには血液中のコレステロール量を減少させる効能があるとされる。
執筆者:千原 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
植物分類学上の一門として扱われる藻類(緑藻類)。世界で約6500種が知られているが、その90%ほどが淡水産種である。日本には約1500の淡水産種と、約300の海産種が生育する。緑藻類は、光合成色素としてクロロフィルaとbのほか、β(ベータ)-カロチン、ルテイン、ゼアキサンチン、ネオキサンチン、ビオラキサンチンなどの色素をもち、体色は緑色。同化貯蔵物質はデンプンである。葉緑体は2枚の膜で包まれ、多重のチラコイドラメラ(葉緑体の構造単位となる薄い層)をもつ。生殖細胞は単細胞で、遊走細胞は頂部に2本あるいは4本の等長な鞭毛(べんもう)をもつ。また、頂部付近に環状に多数の鞭毛をもつものもあるが、いずれの鞭毛も鞭(むち)型構造である。緑藻植物の分類は、主として体構造、生殖の方法、細胞分裂の様式などによって、10~12目に分類される。
緑藻植物の体構造は、単細胞性のものから群体性まであり、細胞にも糸状、膜状、樹状、管状などがある。単細胞性と群体性のもののなかには、クラミドモナスやボルボックスのように鞭毛をもって泳ぐものと、クロレラやヨツメモのように鞭毛をもたず、遊泳性のないものとがある。ミル、イワヅタ、カサノリなどの体は単細胞管状である。ミルの仲間にはナガミルのように十数メートルに達するものもあるが、体は胞嚢(ほうのう)という小さな袋が互いに細い糸でつながった構造となっている。胞嚢と胞嚢の間に細胞を仕切る細胞壁がなく、細胞質はすべて連絡しているので単細胞体と考えられるが、成熟すると配偶子嚢を生じ、配偶子嚢との間には隔壁を生ずる(分実性という)。イワヅタは外見上、根、茎、葉の区別が明瞭(めいりょう)である。しかし、この体にも細胞間を仕切る細胞壁がない。イワヅタの葉緑体は、明るいときには葉状部に移り、暗くなると葉緑体は茎状部と根状部に移動する。イワヅタでは生殖細胞は体全体につくられる。つまり、体全体が胞子嚢となるわけである(全実性という)。ミルとイワヅタの体はいずれも多核であるが、カサノリでは通常、単核である。
緑藻植物を生活史の様式からみると、(1)ミル、イワヅタのように複相(2n)体のみが存在し、減数分裂は配偶子形成前に行い、世代交代のないもの(ミル型)、(2)アオミドロのように単相体のみが存在し、雌雄の配偶子の細胞質が互いに連絡管を通じて融合し、接合子が発芽前に減数分裂をするもの(アオミドロ型)、(3)外見上、同形同大の配偶体と胞子体が互いに規則正しく交代する同型世代交代をするもの(シオグサ型)、(4)ヒトエグサやモツレグサのように、巨視的な配偶体に比べて顕微鏡的な大きさの胞子体とが互いに規則正しく交代する異型世代交代をするもの(ヒトエグサ型)などに分けられる。
[吉崎 誠]
… 細胞壁の有無は動植物の差の一つであるが,単細胞藻類には細胞壁をもたないものが多い。また,同じ細胞壁でも,陸上植物や緑藻類ではセルロースなどを基質としたものであるが,褐藻類や紅藻類ではフコイジン,ラミナリン,寒天,キチン質などでできており,簡単に同質と断じることはできない。さらに,生活環のある時期,とくに生殖細胞には細胞壁はない。…
…またラン藻のネンジュモのある種のように,ソテツやツノゴケなど他の植物の組織内に生育するものもある。地衣類が,子囊菌と緑藻類またはラン藻類との共生体であることはよく知られている。緑藻類をもつ地衣類はやや緑色がかり,かたい手ざわりであるが,ラン藻類をもつものは黒色がかり,やわらかい手ざわりである。…
…現在,地球上には約3万種の藻類が知られ,淡水藻と海産藻類がそれぞれほぼ1/2をしめる。グループとして陸水にのみ生育する藻類は車軸藻類だけで,グループ全体の80~90%またはそれ以上の種類が陸水産である藻類は,緑藻類,ミドリムシ藻類,黄金色藻類(ヒカリモ類),黄緑藻類(不等毛類)などである。これとは逆に,海に多く生育する仲間は,紅藻類,褐藻類,ハプト藻類,渦鞭毛藻類などである。…
※「緑藻植物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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