改訂新版 世界大百科事典 「ミョウガ」の意味・わかりやすい解説
ミョウガ (茗荷)
Zingiber mioga Rosc.
花や若い茎葉を野菜として利用するショウガ科の多年草。本州以南沖縄までの温暖地に自生し,栽培もされる。林床性の植物で,腐植の多い土壌を好み,酸性土壌にもよく育つ。肥厚した地下茎から葉鞘(ようしよう)がまき重なった高さ50~100cmの偽茎を出し,広線形の葉を2列に展開する。苞につつまれた短柄の花序は7~9月に地下茎から直接生じ,花は開花後1日でしぼむ。日本で栽培化されているが,品種の分化は不十分で,早生の夏ミョウガ,中生・晩生の秋ミョウガに分けられる程度である。全草に独特の香りと辛みがあり,花序を利用する花ミョウガは,早生の夏ミョウガから晩生の秋ミョウガまで長期にわたって収穫できる。また若い芽立ちを軟白して利用するミョウガタケの栽培法には肥培した株を掘り出して,加熱した軟化床に伏せ込み,2~5月に収穫する促成栽培と,露地植えの根株をそのままにしておいて発芽直前に被覆し,60~75cmになったときに収穫する露地栽培がある。どちらも漬物,吸物,薬味,魚・肉の添物に利用される。また,かつては秋に老熟した茎をさき,縄をあんだ。
執筆者:高橋 文次郎
食用
ミョウガは,日本では最も古くから栽培されていた野菜の一種で,《延喜式》には供御の漬物などの料とするものの栽培規定が見えている。《料理物語》(1643)には汁の実,なます,刺身,あえ物,すし,漬物によいとされている。すしというのは室町時代から行われていた野菜のすしの一種で,《料理塩梅集》(1668)によると,桶などに飯と刻んだミョウガを交互になん重にも敷きつめ,重石(おもし)をかけて漬けこむものであった。以上のようなもののほか,江戸時代の料理書には丸のまま熱湯をくぐらせたミョウガを串(くし)にさして,トウガラシみそをつけて焼く〈みょうが田楽〉,縦に刻み調味して煮たミョウガを,固くしぼってノリ巻にした〈みょうが浅草けんちん〉などというものが見られる。ミョウガはさわやかな辛みと香気をもつ日本的な食品として愛好されるが,食べると物忘れするというので鈍根草(どんごんそう)の異名があり,空腹のあまり,かたわらの料理のミョウガをつまみ食いした稚児を見て,そばにいた人が修業中の若い人は物忘れをしないために食わないものだというと,稚児は空腹を忘れるためにもっと食おうといった(《軽口露がはなし》)というような笑話がいくつも伝えられている。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報