少量の土に蒸留水(通常、土の容積の2.5倍の水)を加えて測定した水素イオン濃度(pH)値が6.5以下のときの土壌。pH値6.0までは微酸性、5.5までを弱酸性、5.0までを中酸性、4.5までを強酸性とし、それ以下を極強酸性として、酸性の程度を区別する目安とすることもある。
土壌の酸性は、基本的には多湿気候下の風化作用と、植物遺骸(いがい)の分解に伴う腐植酸の生成とに由来する。風化や植生の作用に乏しい砂漠または砂漠に近い地方には、ほとんど中性(pH7.0前後)または微アルカリ性の土壌が多いが、湿潤地方の土壌は種々の程度に酸性化している。ポドゾルの表層直下にはもっとも強酸性のA2層(E層位)があり、pH3~4に達するものもまれではない。温帯から熱帯にかけての褐色(かっしょく)森林土や赤黄色土も、A、B層に酸性(中~強)を呈するものが多い。日本はどこでも年間を通じて雨量が多いので酸性土壌が広く分布している。土壌の反応が酸性に傾くと、土壌粒子の表面に有害なアルミニウムイオンが吸着して植物の生育を害する。
土に中性のカリウム塩を加えると、風化の進んだ土壌のpHはさらに低くなる傾向がある。これは土壌中のコロイド状粘土粒子が水素イオン(またはアルミニウムイオン)を吸着していたからで、このように塩化カリウムによって抽出された酸を測定する方法(置換酸性の測定)によると、潜在していた土壌の酸性がわかり、それによって土壌のおおよその風化度を知ることができる。酸性土壌は、硫化物の溶出の影響を受けた火山周辺地方や、干拓地の水田土壌などに局地的分布を示すことがある。
酸性土壌は一般に農作物の生育に不利であるが、農作物の種類により酸性に弱いものとあまり酸性の害を受けないものとがある。酸性を好むものとしてはチャ、タバコ、サトイモ、イネ、クズ、ススキ、ツツジなどがあり、逆に酸性を嫌うものにチシャ、オオムギ、ホウレンソウ、ナス、ネギ、エンドウがある。また土壌の酸性度にあまり影響されない作物はダイコン、サツマイモ、トマト、ジャガイモ、カブ、コムギなどである。酸性土壌における作物の生育阻害要因としては、水素イオンそのものの害作用に加え、酸性で溶解してくるアルミニウムイオン、マンガンイオンの過剰障害、リン酸の不可給化、塩基、微量要素の不足などが知られている。これらのなかで、もっとも深刻なのはアルミニウムイオンの過剰障害である。この害を回避するにはpH5.5以上に土壌の水素イオン濃度指数を矯正する必要がある。
[浅海重夫・小山雄生・渡邊眞紀子]
『橋本武著『酸性土壌と作物生育』(1981・養賢堂)』▽『田中明著『酸性土壌とその農業利用――特に熱帯における現状と将来』(1984・博友社)』▽『日本土壌肥料学会編『低pH土壌と植物』(1994・博友社)』
土壌反応(pH)が酸性を示す土壌の総称。日本のように温暖多雨な気候条件下では,土壌中の遊離の塩基と土壌コロイドに吸着されている塩基は雨水によって容易に流亡し,そのかわりに水素イオンや置換性アルミニウムが吸着され,土壌は酸性土壌に移行する。土壌の酸性化は土壌母材や土壌コロイド,とくに粘土鉱物の種類によって影響され,石灰岩を母材とする土壌やモンモリロナイトのような吸着量の大きい粘土鉱物を含む土壌では酸性化しにくく,火山灰を母材とするバン土質土壌や花コウ岩を母材とする土壌では酸性化しやすい。土壌の酸性の強さのあらわしかたの一つである置換酸度(1規定塩化カリウム液の土壌抽出液を中和するに要する0.1規定水酸化ナトリウム量)は酸性土壌では6以上となる場合が多い。酸性土壌は作物の生育上好ましくない次のようないくつかの障害をもたらし,これらは酸性障害と呼ばれている。まず,カルシウムやマグネシウムが欠乏しているので作物の生育を著しく害する。また,アルミニウムが活性化しているため,アルミニウムの直接の害のほかに土壌中のリン酸がアルミニウムと結合しやすく,作物に吸収されにくくなるため,リン酸欠乏にもなりやすい。ホウ素,モリブデンなどの微量要素も酸性下では前者は溶脱しやすくなり,後者は不溶性となっていずれも欠乏を起こしやすい。逆にマンガンは酸性下では溶解度を高め,過剰症を起こす場合がある。さらに土壌微生物の活動も抑制されるため,有機物の分解,アンモニア化成,硝酸化成,空中窒素固定作用も弱まる。酸性土壌を改良するにはカルシウム資材の施用による土壌反応の矯正をまず第1に行う。そのほか,堆厩肥(きゆうひ),緑肥などの有機物の施用も酸性土壌を改良するのに効果があるが,これらは土壌反応を直接矯正するものではなく,土壌の物理性を改善し,土壌微生物の活動を活発にするための手段である。
執筆者:松本 聰
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